TPUを組み合わせたマルチマテリアル PLAやABSとの相性良好 アイデア次第で活用方法は多そう

2024年2月7日

FFF(FDM)方式の3Dプリンターでは目的に合わせて様々なフィラメントを使用できるのが利点です。今回はマルチノズルの特性を活かして、柔軟性があり靱性や層間密着性に優れたTPUと、よく使うPLAやABSを組み合わせて使用してみました。素材同志の相性はよく、組合わせて使用すると用途が広がりそうです。

TPUと他素材の相性について

まずTPUについてです。TPUは熱可塑性ポリウレタンの略でFFF(FDM)方式のプリンターでは比較的ポピュラーな柔らかい樹脂です。身近なところではスマホのカバーなどで利用されていることがあります。温度が高いと糸引きが多かったりプチプチと気泡が入るなどの問題はありますが(乾燥により改善します)値段も高くなく、エンクロージャーなども不要で扱いやすい印象です。
何より柔らかい樹脂をプリントできる点で他の樹脂とは根本的に異なります。当ブログでもTPUについてはいくつか記事がありますので良かったらこちらもご覧ください。

だいぶ初期の物になりますが、こちらもあります。

いくつか試した結果ですが、TPUと相性が良いのは表題の通りPLAが筆頭で、パーツファンの問題はありますがABSが次点かなと思います。なお、PETGはあまり接着が良くなく、接合部の構造等を工夫すればいけなくはない、というところです。最初にチャレンジするならPLAとの組み合わせが間違いないと思います。

なお、私がよく使用しているのはコスパならsainsmartのもの、また比較的高速に造形も可能なのがpolymakerのハイフローTPUになります。どちらも良いものですが、polymakerのハイフローはさすがにお値段しますね。。amazonリンクもよかったらご確認ください。

3Dプリンターについて TPUの扱いには注意

ご存じの方には釈迦に説法ですが、TPUはフィラメント自体が柔らかく、破断しにくいので3Dプリンターで扱う際にトラブルになることがあります。具体的には

  • ボーデンエクストルーダーではうまく送れない機種あり
  • エクストルーダー部分で挟み込む圧が強く送り出し出来ない(弱める必要があります)
  • ベッドに張り付いて剥がせない(zオフセットに注意する、ベッド素材を検討する必要あり)
  • 糸引きが多い、ダレる(温度は控えめに、リトラクションは1.5mm程度に)
  • フィラメント交換機構があるとトラブルが発生しやすい(MMUはいけるらしい)

などがあります。お世話になっているhiroさんのように、PrusaのMMUではTPUをフィラメントチェンジで利用されている方がいますが、今回のようなTPUと他の素材をマルチにシングルノズルで使用する際は、理想的にはノズルが2つ欲しいところです。我が家はSnapmakerのデュアルエクストルーダーを用いていますが、2つのノズルがあるIDEXのプリンターも候補に上がると思います。が、価格が高くなりがちです。Bambuがコレできるようになるとすごくいいんじゃないかな・・・

需要はないと思いますが、参考までに現在の当方のプリンター、Snapmaker dual extruderについてはこちらを良かったらご覧ください。ドマイナーな機種ですが、非常に良いものなんですよ。

なお、マルチノズルの利点のひとつはノズルチェンジ時に必要以上のパージがなく、時間がかからない点です。下にある写真でパージタワー(これは樹脂を安定した圧力で吐出させるためのものです)はありますが、そのほかにゴミは出ません。ノズルチェンジのみなら3秒で終わります。

スライサーについて

今回使用したスライサーは実はSnapmaker lubanという純正スライサーで、Curaがベースのものです。私は通常Prusaslicerを使っていますが、マルチマテリアル関連についてはCuraが優れている面も多いと感じています。(ペイント機能やカット機能などPrusaslicerが優れている面ももちろんあります。)

Cura系が優れている点の一つはマルチノズルでの柔軟性です。Plusaslicerはマルチノズルの際、ノズル径が異なるとプライムタワーが使用できなくなってしまい非常に使い勝手が悪いです。ノズル径が同じであれば回避できるのですが、この制限は個人的に痛いところ。

Curaではそういった制限はなく0.2mmノズルと0.6mmノズルを組み合わせる、等が柔軟に可能です。PrusaslicerもPrusaXLでツールチェンジ機構が出来ましたのでこれから改善していくのではないかと楽しみにしています。

また、Cura系で使える機能として有用なのがスライサーでモデル同士を接合するツール、Interlockingがあります。この機能を使うとモデリングしなくてもスライサーが勝手に別素材同士が結合しやすいようにGcodeを作成してくれます。なお、今回改めて調べたら、私が今回紹介する洗濯ばさみと同じものが載ってました。メジャーなソフトですし、無意識に目に入っていてパクっていた可能性があります。2番煎じで申し訳ない・・・。

Snapmaker LubanはCura系のスライサーなのでこのInterlockingが使えますし、実はペイントの機能もある程度あってマルチノズルマルチマテリアル印刷については結構優れたスライサーじゃないかと思います。基本的にSnapmakerじゃないと使えないけど・・・。

具体的なパラメーターには特にひねりはなく、それぞれマテリアルの設定を割り当てるだけです。丈夫なマテリアルがタワーの外側になるように設定すると良いんじゃないかと思います。また、糸引き等を予防するためにはTPUは温度を低めに、またツールチェンジ時はリトラクションをゆっくりにするとうまくいきやすいと思います。なお、ABSと組み合わせる際にはベッド温度に注意してください。ABSでスカートやブリムは作成し、ベッド温度を上げておきましょう。TPU側もベッド温度はABSと同様に高くしてください。でないとTPU印刷中にベッド温度が下がってABSが剥がれます。パーツクーリングファンもTPUのデフォルトは風が強いので弱めておくと良いと思います。

積層間で壊れない部品を作る 水筒のフタ作成

TPUを組み合わせて2種類の素材で色々試そうと思ったきっかけは子供の「水筒の蓋」です。年長さんのうちの子が壊して「3Dプリンターで直して」と行ってきました。破損した蓋をみると樹脂のヒンジ部分で壊れています。ぞんざいに使うので仕方ないところもありますが、この形状だと普通に作ってもまた外力が加わると「積層割れ」してしまいそうです。何せ相手は幼稚園児ですから・・・

そもそもコレ、本当は千円以下で購入できます。新規に作るより買った方が楽なのですが、子供に言われたからには作らざるを得ません。せっかくなのでより壊れにくい形状を目指して柔軟で壊れないTPUと硬いPLA、ABSを組み合わせることにしました。最初にお出ししますが、出来上がったのがこちらになります。

破損しやすいヒンジ部分はTPUとし、内部にはアンカーを設けて歪みを最小限にしました。構造上、壊れるとしたらここなのですが、TPUの塊としてつくるとまず積層で破断する心配はなくなります。せっかくわざわざ自作するのでオリジナルの性能を超えるものを作ろう、と考えた結果です。

上のものはTPUとABSで印刷したものになります。ABSとの組み合わせではTPU造形時にどうしてもファンが必要になるためABSの収縮に注意が必要です(通常、ABSではあまりファンは必要ありません)。今回作成したものもz方向に積層ムラが発生していますが、これがABSの収縮によるものだと思われ、この組み合わせでは避けることができない印象です。

下の動画は前段階の試作でPLAと組み合わせたものです。こちらですとファンがデフォルトでずっとONになるためz方向のムラがなくなります。私は基本的にTPUとの組み合わせはPLAが最適だと思っていますが、今回は脆性の心配からABSにしました。(アニール処理はTPUが耐えられないかも??

制作にあたっては3Dスキャナーの力を借りてそれを元にモデリングを行い、微妙な修正を加えてfitするようにしています。

今回はテカった半透明ABS?だったのでAESUBのスプレーを使用しました。また紹介したいのですがスキャンのお供として非常に頼りになります。

こういうちょっと角度が微妙であったり、ノギスで計測しにくいものは3Dスキャナがあるととても便利です。使用しているのはREVOPOINT INSPIREで、一般的な用途に使うのであればかなり威力を発揮してくれると思います。

レビューも良かったらご覧ください。企業から案件を頂いたものではありますが、モノは良いと思います。

モデリングの手間はかなり削減できますし、驚くべきことに基本形状はほぼ一発で問題なく使用できるものが出来上がりました。スキャナ、すごい。モデリングについて質問があればコメントいただければ嬉しいです。

積層割れを気にする必要がなくなったためモデル形状はオリジナルを踏襲し、平置きで印刷してサポートも不要な形状にしました。穴は6角形になっています。

なお、本体のTPU部分は全てモデリングが終わった後にボディを分割しています。樹脂同士の接着性は良かったのですがやはり接合部は鍵になりますので、表面積を稼げる形状にしました。今のところは非常にうまく動作しており、毎日幼稚園に持っていっています。下の写真、ロック部分も同様にTPUで作成しました。

TPUをバネの代わりに 洗濯バサミを作ってみる

また、面白いかなと思って作ったのが洗濯バサミです。

TPUの弾力性を使ったら面白いかなと思って簡単な形状を作ったのですが、意外とちゃんと動作してびっくり。一体で作るので薄いものは挟めませんがタオル等は大丈夫ですし、必要に応じてわっかや引っ掛けを作れることを考えると便利ですよね。

動作の様子は右のTwitter(X)から良かったらご覧ください。ただこれ、上でも触れたとおりCuraのリリース時に全く同じようなものが紹介されており、2番煎じでした。意識してパクったわけではないですが、改めてオリジナルと思っていいねやRT下さった皆様、申し訳ありません・・・。

ただ金属ばねを使わないこの方法はちょっとおもしろくてTPUの弾力性があるうちは極めてイイ感じに動作します。耐久性は分かりませんが、用途に合わせて大きさや挟む幅、圧力等自由に調整できるので色々楽しめる気がします。

アイデア次第で用途が広がりそう

TPUは造形時に注意が必要ですが、出来上がった後は引っ張ったり曲げたりしても容易に壊れない優れた特性を持つ樹脂です。用途と補強したい場所に合わせて使うことで色々楽しめる可能性があります。摩擦にも強いので削れやすい部分に使うのもいいかもしれません。キーホルダーのようなものに使っても壊れにくいものが出来ると思いますし、タイヤやジョイント部分等に組み込むのも楽しそうです。あえて結合性の悪いPETGと組み合わせてサポート代わりにするとかも出来るかも??

いずれにせよ、TPUを組み合わせたマルチマテリアルはアイデア次第で色々用途が広がる印象があり、これからも色々遊んでみたいと思う組み合わせでした。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!