MakerChip制作で始めるCADモデリング Fusion, FreeCAD対応 初心者でも出来るMakerChipの作り方
今回はJRRF2025で話題になったMakerChipについてです。今回の件で興味を持っていただいた方も含め、FusionやFreeCAD初心者向けにMakerChipの製作方法を記事にしてみました。CADに扱いなれていない方も、MakerChipを設計してみませんか?3Dプリンターを買って初めての設計がMakerChipでもいいと思うんですよね!
MakerChipについて
MakerChipは今回開催された、JRRF2025をきっかけに日本の3Dプリンターユーザー間で一気に広まったと思われる、3Dプリンターで作る名刺代わりのような円盤です。詳細については前回のブログもぜひご参照ください。
このMakerChipのひな型となるファイルはMakerworld等で3Dデータが公開されており、それをモディファイしたりデザインを追加したりすることで、比較的容易に作ることが出来ます。ですがそれだとCADの勉強になりませんし、せっかくならこれを機会にMakerChip設計講座を書いたら多くの方に役立ちそうな気がしたので記事にしました。最後までお付き合い宜しくお願いいたします!
Makerworldのリンクはこちらになります。
ちなみに今回のJRRF、私は遊びに行っただけなのですが、下のツイートのようなちょっと風変わりな?Makerchipを作ってみました。これはFreeCADを使っています。アイデア次第で色々なものが作れるのがMakerchipの楽しいところですね!Xで検索すると皆さんの面白いものが沢山出てくるのでぜひ調べてみてください!
Fusionで作る場合
Fusionは私が扱った最初のCADソフトで、個人利用、商用不可という条件であれば無料で扱える、超高機能なソフトです。当ブログにも多数利用した記事がありますので、興味を持っていただいた方は検索してみてくださいね!これが無料っていうのはちょっとしたバグです。
Fusionはかなり使いやすくて、平面にスケッチを引いて簡単に立体を作ることができます。まずは完成形がこれです。周囲の装飾はただ真っすぐだと面白みがないので、らせん状の形状にして、若干の丸みをつけています。表面も手触りが変わるように凹凸を付けました。サイズは40mm、厚さは3mmです。



実際は表示の物欲部分は別にデザインしたSVGファイルを入れることになります。SVGはイラストレーターやInkscapeなどでエクスポートしてFusionに持ってきていますが、そこは今回は扱いません。また、QRコードの埋め込みはCADではなくこの記事最後で紹介する、スライサー側で行います。今回はOrcaslicerを使いました。
また、円周上に並ぶボディなので本来はボディの一部だけを作ってそれを円周上に並べてもよいのですが、今回はイメージしやすさを念頭に全体を一気に作る方法をとっています。ご了承ください。
基本のスケッチと形状作成
Fusionは一気に色々スケッチを描いても扱いやすいので、最初に必要な線は引いてしまうと楽です。今回は平面に円と直線一本を引き、その直線を円形に配列する形で果物の断面のような形を作ってみました。Fusionの左上のメニューから線が描けます。



そうしたら元の円を内側にオフセットして装飾部分が入る枠部分と白い本体部分の境界を作りましょう。不要な部分はトリミングしてしまっても構いませんが、残しておいても大丈夫です。ただ、残した場合はケーキのような3角部分を全部選択する必要があります。Fusionはドラッグして選択するときに右からドラッグする場合と左からドラッグする場合で選択範囲が変わる仕様になっているので両方試してください。右からドラッグすると下図の黄色い選択範囲で全部選択できます。出来たボディは最初から色を付けておくとイメージがしやすいのでお勧めです。ボディを選択した状態で右クリックから「外観」を選んで、好きな素材を使ってみてください。ボディにドラッグすると適用できます。上部の「このデザイン内」の素材をダブルクリックすると色が変えられます。なお、2つ目以降は複製して色を変えればOKです。





周囲部分の作成と修飾
では周囲装飾部分を作りましょう。単純に押し出しする場合は非常に単純です(1枚目)。が、ちょっと面白くないので少しひねりを加えてみることにします。まずはスケッチを上面にコピーします。スケッチ画面で全部を選択、コピーして、新たに上面にスケッチを作り、ペーストします。ペーストしたらスケッチを少し回転してみました。そのまま3Dスケッチ機能で起点と終点のパスを書いておきます。この操作で厳密には円は崩れてしまいますが、パスを上から見てなるべく沿う形にしておいてください。また、上下のスケッチの中心を結ぶ線も引いておきましょう。これが次のスイープのパスになります。





ここまでくればもう一息です。今書いた線を利用してスイープを行い、タイプをパスとガイドレールに変更し、下の1枚目のようにすると思っていたソリッドができるはずです。新規ボディにしないと今表示されている中央の円柱とつながります。出来上がったら外観を今度は黄色にしてみました。こんな感じのものが出来ればOKです。同様の手順を残りの部分を選択して一気に行います。これで基本の形が出来ました!ちょっとポケモンっぽい色合い?



さらにもうひと手間をかけるなら、さらなる修飾を加えていきましょう。今回は側面から見て円柱がちょっとカーブするように形状のトリミングを行いました。左上のモードでサーフェスに切り替えて、スケッチを描きます。サーフェスは面一枚を書くので、側面で弧を描きます。弧はゆがまないように今回は1枚目の灰色と黄色のつなぎ目の点を基準に、垂直な線やさらにそれを二等分する垂線を引きました。それに合わせて3点で弧を描いています。
これを回転させることで分割用のサーフェスができますので、左上のタブからソリッドに戻ってボディを分割を選びます。ボディをサーフェスで分割して余計なボディを除去したり非表示にすれば完成です。指輪みたいな感じになったのではないでしょうか?今回はさらに上面側は黄色部分の側面に面取り、灰色部分にフィレットをいれてアクセントをつけています。印刷がしやすいように底面は修飾を加えませんでした。
3Dプリンターで作ることを前提としてモデルを作る際には、プリンターが作りやすい形状を意識することも大事なんですよね・・・。なお、この物欲という字は別ソフトで作ったSVGファイルです。この文字を凸にするために、あとからベージュの面を少しオフセットしてへこませています。Fusion版はこれで完成です!








同じようなことをFreeCADでやってみる
当ブログではFreeCAD入門として、Fusionユーザー向けに記事を複数書いています。初めて挑戦される方はぜひ心構えとして下の初回入門記事をご覧いただけると嬉しいです!FreeCADは癖も強いですし正直大変な面が多く挫折者も続出するソフトウエアなのですが、Ver1以降かなり良くなっていますし、何より恒久的に費用が掛からないという点で手段として持っておいて損はないソフトなんですよ・・・?
今回、FreeCADのほうは操作方法はある程度端折ります。FreeCAD入門を既に読んでいただいている方では問題ないと思いますが、ご存じない方は苦労ポイントがどこにあるかぜひご確認ください(笑)。
スケッチは似ているが、線のトリミングが必要
まずスケッチ関係です。基本的に引けるスケッチは同じなのですが、FreeCADの場合は押し出し等を行う際に辺をすべて囲んで行わなければいけないため、ただスケッチが交差しているだけだと部分的な押し出しが出来ません。なので基本的には基準となるスケッチを書いたら、それをコピーして余計な線を消していく作業が必要になります。その都合上、本来は円の一部を書くのが時短なのですが、今回はイメージしやすいよう全て書いてみました。
また、スケッチに拘束が入っていると、線のトリミングをしていくと変なエラーで線がぐちゃぐちゃになります。コピー、ペーストした後は必要ない拘束は削除したほうが無難です。なぜかトリミングできない場合もあり、そういった場合は大きめに消して、あとから地道に書き直すことになります・・・。
色の部品ごとにスケッチはコピーペーストして、それぞれのボディに分けておきましょう。最後の写真が分け終わったところです。このスケッチ回りの面倒さはFreeCADをやろうとすると付き合わざるを得ないポイントになりますね。






外側部分を作る作業 やはり手間がかかる
単純な押し出しではなく、上のFusionでやったようなちょっと凝ったことをするとFreeCADは大変なことが多いです。もっといい方法もあるのかもしれませんが、今回は私がやった方法の紹介です。
まずはFusionの時と同じようにスケッチをコピペして、z方向に3mm、角度を10度ずらします。ここはまあ同じ。複数ソリッドをonにしてあれば形状が複数あっても大丈夫でこのすべてが1つのボディになります。(Fusionのようにボディが勝手に増えたりはしない)
このままロフトすれば3枚目のようになりここまでなら手間はそれほど多くありません。ですが先のように湾曲させようと思うと大変です。今回はCurvesワークベンチを用いてFusionの3Dスケッチの代わりに曲線を引きました。この曲線を使って図のようにパイプを使って立体化を試みているのですが、一見良いように見えて実はうまくできていません。出来上がりをみると、オレンジと白の間には隙間が空いてしまうんですよね・・・。これはスイープの際に中心線をパスとして使用できないためです。Fusionにある柔軟な機能がないためゆがみが出てしまった例で失敗です。まあ、敢えて隙間を空けるアクセントもありですけれど。







サーフェスを用いた工夫と完成
仕方がないので方針を変更して最初に作った形状の間にサーフェスを貼って隙間が空かないようにすることとしました。これを行うようの新たなボディを作って今までのスケッチをコピペし、すでに作られた曲面と曲面の間にスケッチ線を使った面を貼っていきました。
サーフェスワークベンチに移動して、コピペされた2枚のスケッチと、作った形状の面を4辺ずつ選択して面を貼ります。6つ面を貼ってからPartワークベンチに移り、シェイプビルダーで6つの面をシェル→ソリッドにと変更していきます。(CurvesワークベンチのParametric solidでもできます。)これで隙間のないソリッドが出来ましたので、Part designワークベンチでこのソリッドをベースとして装飾し、円周上にコピーします。あとはFusionでやったような作業をPart Designワークベンチで行えば完成です。
こういったサーフェスの作成は実はFusionではあまりやったことがなくて、FreeCADを始めてから学んだ技術です。当然Fusionでも使えますし、サーフェスが自由に扱えると色々な場面で応用が効きます。FreeCADやっていたらFusionの腕も上がるかも??






今回はここで終了しましたが、Fusionでやったようなサーフェスによる形状分割も可能です。ただ、このFusionの「1つのボディの中に複数のソリッドが含まれる」という状態は実験的な機能です。ここからさらに形状を弄りたい場合はいったんstepで書きだしてしまい、それを読み込んだ状態で新しいファイルを作ったほうがいいのではないかと思います。(エラーのもとです)
というわけで、色々面倒なことはあるのですが、出来ないかと言われればまあ、出来ます。でも初めてやる方はやっぱりFusionですよ。個人用とはいえ、Fusionが無料で使えるのは本当に素晴らしいことです。
スライサーでQRコードを埋め込もう
もちろん、上述のCADにQRコードを読み込んでデータを作ることもできるのですが、QRコード等小さいソリッドが沢山あると全体の動作が緩慢になったりしますし、近年はスライサーの進歩が目覚ましくスライサーで色々行うことができるようになりました。今回はOrcaslicerをつかってQRコードをFusionで作ったMakerChipに埋め込んでみます。これはQRコードでなくても、イラストレーターで作ったSVGファイルでも行えますので表面のロゴなどにも利用が可能です。
まずは前提としてQRコードをSVGでダウンロード出来るwebサイトを探しましょう。私が今回利用させていただいたのはこちらのサイト、QRコード作成 SVG版です。
印刷しやすさを考えるとエラー復元能力は最小限がおススメです。SVGをダウンロードしておきます。

Orcaslicerを開いて、まずはモデルをインポートします。私は今回は3MFでインポートしました。インポートすると色が1色になってしまったので、変更しておきます。今回は底面側にQRコードを読み込みました。メーカーチップが選択された状態で右クリックからパーツを追加、SVGを選択すればOKです。
巨大なQRコードが読み込まれるので大きさや高さを手動設定します。今回は1mmにして埋め込んでいます。
底面にQRコードを読み込むと全体の高さが上がって空中にチップが浮いてしまう場合もありますが、その場合はあとから手動でプレートにくっつくまでおろしてくださいね。出来上がったらプレビューで確認です。ちゃんと底面にQRコードがプレビューされれば完成です!





印刷しよう
設定したら印刷です。ちょっとこの部分は環境が変わってしまったせいでBambuスライサーなのですが、こんな感じで配置しました。文字のバックがキレイに見えやすいよう、チップを45度傾けています。3Dプリントの塗りつぶし方向を変更することでも可能です。インフィルが文字と90度直行若しくは水平になっているほうがキレイにみえるんじゃないかなぁ、と思いましたがどうでしょうか?
物欲のほうがFusion、takeotaのほうがFreeCADです。このtakeotaはスライサーで文字を追加して入力しています。最近はスライサーが高機能なので、かなりの作業をスライサーで行うことが出来ます。




出来上がったのが3,4枚目ですが、全く問題なく印刷できました。それにしても、言われるだけあってこのBambu A1 mini Comboは強い。この価格帯で1台持っておいて損のない一台ですね・・・。下にamazonリンクを貼らせていただきますが、定価ベースで高い時で10万弱のものが、安ければ5万円台まで下がることもありえます。本家ページも含めてチェックしていただくのがおススメです。
※6月24日からちょうど本家はセールをやるらしいです!!
こんな作り方も! Twitter(X)でお見かけした技
今回はオーソドックスにCADで描いて、一般的な物を作ったつもりですが、こういったものの作り方や応用ってたくさんあります。
それが面白くも興味深い所なのですが、今回はXでもお世話になっている紺屋さんのツイートを紹介させていただきます。今回のブログで端折ったSVGの作成にも触れられており、とても勉強になると思います!
使われているSVG作成ソフトはInkscapeというフリーのベクターソフトですし、カヌレ画像はChatGPTにお願いするという仕様。素晴らしいー!!
また、スライサーのモディファイヤを利用したインフィル透かしなど、今回のモデリング等と組み合わせることが可能なテクニックが紹介されています。この模様はインフィルで出来ているんですね。
先ほども書いた通り、スライサー側の進化で3Dプリンターの表現力は変わってきています。色々な表現が出来るのは本当に強みです!既に色々使用されている方もちょっと目からうろこなのではないかと思いますので、皆様ぜひ元ツイートをご覧ください!
初めてのモデリングが、MakerChipでもいいじゃない
ということで今回はMakerChipの制作について記事にしました。JRRF2025も盛り上がり、多色プリンターも入手しやすい価格となり、3Dプリンター人口は増えていくと思いますが、同時にあまり使わず飽きてしまう方も出てくるのではないかと思います。自分で色々作れれば、ツールとして一生遊べるのが3Dプリンターだと私は考えていますので、小さなブログですが皆さんがCADに慣れる際のちょっとした足掛かりになればと思います。
初めてのモデリングがMakerChip、全然アリだと思います。もしよかったらぜひ作ってみてくださいね!
それでは今回も最後までお読みいただきありがとうございました!!
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません