反らず匂い少なく安定のPolylite ABS、反るけど剛性高くなめらかなPolylite PC レビュー 用途によって使い分けよう

2022年4月18日

ABSの中では非常に扱いやすく、失敗が少ないPolylite ABSと、癖はあるものの剛性高く壊れないPolylite PC(ポリカーボネート)。エンクロージャーお持ちの方限定になってしまいますが、どちらもPLA以外のフィラメントを使ってみたい方にオススメのフィラメントです。向き不向きが異なるため使い分けできますし、サポートがはずしやすいのも勝手が良いです。当方の3Dプリンターはsnapmakerですが、設定も紹介させていただきますので挑戦しようと考えていらっしゃる方の参考になれば幸いです。

FDM方式3Dプリンターのさまざまな材料

私も含め、3Dプリンターで最初に使う材料はPLA(ポリ乳酸≒広義の生分解性プラスチック)という非常に扱いやすくエンクロージャーなしでも安定した造形が行えるフィラメントだと思いますが、熱に弱かったり、硬いものの衝撃に対して割れやすいなどの弱点もあります。(強度については最近は改良されたPLAも出ています。)

しかしながら、FDM方式の3Dプリンターの醍醐味としてさまざまな材料が使える点が挙げられますし、用途によって求められる性能も異なるため、物は試しと私も色々な素材を使ってみています。今回はエンクロージャーが必要な材料であるABSとPCを、Polymaker社製Polyliteシリーズのフィラメントでレビューさせていただきます。なお、どちらもフィラメントレビューキャンペーンで頂いたフィラメントではありますが、特にメーカーの回し者ではなく、忖度が必要な利害関係はありません。

私が今まで利用した材料(TPU、PETG)については下記もぜひご覧いただければ幸いです。色々使ってみるのはとても楽しいですよね!

代表的プラスチックのABS

ABSはプラスチックの代表選手で、70年以上の長い歴史を持つ材料です。紫外線には弱いものの、機械的特性(硬度や曲げ剛性、耐衝撃性、)のバランスに優れ、加工や塗装がしやすく、100度程度までの一般的な温度で安定していることから様々なプラスチック製品に使用されています。ABSは略語で、アクリロニトリル (Acrylonitrile)、ブタジエン (Butadiene)、スチレン (Styrene)の略になります。詳細はWikipediaをご覧ください。これらの配合により特性は変化するとのことですが、おおよそ完成された材料です。

熱可塑性で普段私たちが目にする製品は射出形成部品がほとんどですが、上記のような特性から3Dプリンター材料としてもっともメジャーな材料の一つです。一方で、3Dプリンター初心者にとっては「難しい」とも言われている材料になります。Googleで検索しても「反り」「臭い」「コツ」などのキーワードが出てきます。熱に強い分エンクロージャーが必要で、周囲温度との差が大きいと反ってしまう、溶かす際にどうしても所謂プラスチックの溶ける匂いがして体に悪そうなどのイメージもあります。

なお3Dプリンター使用中の微細粒子や化学物質については下記記事もよかったらぜひ。まだ知見が多くないと思いますので、ぜひ色々調べていただければと思います。現時点では3Dプリンターの使用が直接健康被害を及ぼすというエビデンスはありませんが、換気はちゃんとしたほうがよさそうだと個人的には考えています。

Polylite ABSの造形例はこちらになります。素性の良さが伝わりますでしょうか?

Polylite ABS 造形設定と感じた特徴

いきなりですが、当方の設定はこちらになります。もしよかったら参考にしてください。

当方のPolylite ABSの代表的設定
  • ノズル温度250度
  • リトラクション1.2mm(ダイレクトエクストルーダー)
  • リトラクション速度15mm レイヤー変更時リトラクションあり
  • ベッド90℃(エンクロージャーあり)
  • ベッドとの距離0.15mm程度
  • クーリングファン0-10%
  • 外壁3層、上下4層、インフィル20% ブリムあり
  • 速度60mm/s基本に調整

前提を覆すことになりますが、このABSは非常に使いやすいです。エンクロージャーがあればかなり安定した造形ができると思います。ABSで苦労されている方はとりあえずこのABSを使うのがいいと思います。それくらい問題なく、当方ではABSが使えるようになりました。反りもさほど感じず積層強度も問題なく、臭いも想像していたよりずっと軽度でした。

このABSの前に他社のABS+を使用して積層が割れてしまうなど問題が生じていたのですが、これはまるで嘘のようにトラブルが生じません。サポートの剥がれも非常によく綺麗に造形できます。造形物は乳白色っぽい白で、手触りはやや柔らかく、薄くてもすぐ折れたりせずに粘りがありしなります。なお以前のブログで紹介した戦車は白い部分が全てこのPolylite ABSで作成していますが、困るシーンはありませんでした。そつない造形ができています。もしよかったら戦車造形時の記事もご覧ください。

なお、Polymaker様に採用いただいたレビューはこちらです。内容はほぼ同一ですがよろしければぜひ。

エンジニアリングプラスチック 強度が高いPC(ポリカーボネート)

ポリカーボネートも歴史あるプラスチックで、比較的安価で機械的特性に優れ、100度以上の熱にも耐えられるエンジニアリングプラスチック(エンプラ)として知られています。摩耗にも強く難燃性で、透明度の高い樹脂であるため、光学ディスクや防弾ガラスなんかにも用いられています。Wikipediaにも詳細な情報がありますので見てみてくださいね。多くの点でABSよりさらに強い樹脂です。

個人的にはラジコンのボディ部分が身近です。裏側から塗装することで綺麗なボディになりますよね。ただ、3Dプリンター材料としてはABSやPETGほど有名ではないと思います。これは一般的に難しいことの証左でもあります。AmazonでもPCフィラメントは出ているんですが、レビューも意外にまちまちで実はPCではないんじゃないか等品質が疑われるレビューもあります。(購入していないので不明です)

造形に際してはABSと同じくエンクロージャーが必須でビルドプレートも100度程度に加熱できる必要があります。また、後述しますが、造形物が大きい場合、安定した造形のためにエンクロージャー内も高温に保つ必要があります。

Polylite PC 感じた特徴と造形設定

まず設定です。当方ではほぼABSと同じ設定になっています。

当方のPolylite PCの代表的設定
  • ノズル温度260度
  • リトラクション1.5mm(ダイレクトエクストルーダー)
  • リトラクション速度15mm レイヤー変更時リトラクションあり
  • ベッド95℃(エンクロージャーあり)
  • ベッドとの距離0.2mm程度
  • クーリングファン0-10%
  • 外壁3層、上下4層、インフィル20% ブリムあり
  • 速度60mm/s基本に調整

Polymakerには一般用ポリカーボネートフィラメントとしてPolylite PCの他、より強度のあるPolyMAX PCがあります。Polyiteはより容易にPCを使うために開発されており、比較的容易な条件で扱えるとされています。実際使用してみるとABSと似たような設定で比較的細かいパーツは問題なく造形できます。あまりにも呆気なく造形できるので拍子抜けしたくらいです。ベッドへの接着性は高すぎるくらいで、ベッド表面が持っていかれそうになります。付属マニュアルに記載されている通り、ベッドとノズルの距離はやや離し気味(0.2mm)にしたほうがいいです。

注意点は湿気に弱いということです。造形時も含め乾燥剤入りのフィラメントボックスで運用する必要があります。

造形時の匂いはありません。造形物は光沢がありなめらかで、もとが透明なこともありとても綺麗です。一部の情報でPCフィラメントは一般にサポートを剥がしにくいと聞きましたが、少なくともこのPolylite PCでは私が用いているサポート設定(サポートルーフあり)で問題なく剥がせました。ABSのような柔らかさは微塵もなく、カチカチです。感じとしてはめちゃくちゃ硬いPETGって感じの印象ですね。

ただ、比較的小型のパーツは良いのですが、20cm近い大きいパーツは当方の環境ではうまく造形できませんでした。理由は簡単、めちゃくちゃ反るからです。強度が高いこともあり、積層が進むごとに反る力が強くなるのでしょう、長い直線のような単一方向に反る力がかかる場合は造形が困難でした。100度の高温ベッドも相まってビルドシートの両面テープが負けてシートごと反り上がるなど問題が生じています。メーカーHPには英語ですが大きいものを作るときは環境を高温に保てるようヒートチャンバーが望ましいとされています。もしやるならドライヤーでエンクロージャー内を暖めるのだと思いますが、危ないですしプリンター本体への悪影響も考えるととても現実的ではありません。

ということで現状、大きいものでなければ問題ないので強度が欲しい、小さめのものに使用しています。非常に硬質で摩耗にも強く、つるつるなので簡易ベアリングのようにも使えます。

左のTwitterの動画はこれを利用して制作したホルダーですが、とてもきれいに回ります。

ちなみに当方でうまく造形できた最大サイズが下記のものになります。飛行機のスタンドですが、このくらいのサイズにとどめておいたほうがいいと思います。強度がすごくて、鈍器になるんじゃないかと思うほど硬いです。

なお、Polymaker様に採用いただいたレビューはこちらです。内容はほぼ同一ですがよろしければぜひ。

Polylite ABS、PCのまとめ

今回紹介した材料が難しいと言われる所以の一つにはエンクロージャーで保温が必要な点があると思います。耐熱性が高いということは造形時にも高い温度が要求されるということで、周囲温度との差が大きいほど収縮や積層強度の問題など弊害が生じやすいです。機械的特性と品質、造形のしやすさ、ついでに価格をバランスよく保つのがフィラメントメーカーの腕の見せ所ということになります。Polyliteシリーズはそこがとても良いと感じます。また、説明書が付属しており、英語ですが造形の基本設定がすぐわかるようになっているのも良い点だと思います。

今回ABSについては比較的大きく高さがあるものでも問題は生じませんでした。造形時期も冬で環境は一番厳しかったにもかかわらずこの結果は素晴らしいです。柔軟性をある程度持ちつつ強度があり、エンクロージャー環境下であればPLAと同じくらいの感覚で扱える印象でしたので、まずはこれを使えば間違いないです。より安価なABSはこれで上手く行ってからチャレンジすれば良いのではないでしょうか?

PCについてはABSとほぼ同様の設定で造形できましたが「大きくないもの限定」です。後は設計の腕の見せ所ではないかと思います。ネジを作っても積層割れが生じないので壊されやすい部品にはもってこいですし、大きさのあるものは収縮を逃すようにスリットを入れて肉抜きしても問題ないのではないかと思います。本当に「カチカチ」なのに、ノズルが詰まることもなく、機材を壊す心配がなさそうなのも良いところです。

いずれにせよ、Polymakerのフィラメントはやや値段はしますが非常に安定感があります。3Dプリンター材料はAmazonで価格の幅が大きく、消耗品にあまりお金をかけたくない気持ちもあると思いますが、何回も失敗する時間を考えれば最初からPolymakerのものを購入しておくのも良いのではないかと思います。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。新しいフィラメントに挑戦したいどなたかの一助になれば幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。