性能を活かそう Ankermake M5 レビュー 後編 3Dプリンターの調整とスライサー設定 M5の長所と短所は?

2023年3月29日

後編になります。調整とコツといってもそんなに難しくありませんので、どなたかのお役に立てば幸いです。これくらいでそこそこの高速性と品質が手に入るということを考えると3Dプリンター初心者にとってAnkermake M5は良い選択肢の一つだと私は考えます。短所と長所をまとめましたので前編から通してご覧いただければ幸いです。当方はAnkermakeを継続使用しており、ブログ内に複数の記事がありますのでよかったらぜひ他の記事もご覧ください。

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Ankermake M5は買って出しでは実力が発揮できていない

私は技術者でも玄人でもなく、色々やりつつの2年程度の経験があるだけのアマチュアですが、その私から見てもこのAnkermeke M5は初期状態ではイマイチです。原因はハード側のベルト調整不足、ソフト側は角をきれいに出すリニアアドバンスと、スライサー設定のジャークと呼ばれるノズルの速度が変わる瞬間の最低速度が最適化されていないなど様々です。

結果として速度は速いのですが、3Dプリンターになれている方から見るとあまりきれいでなく、ベルトテンションのゆるみから寸法誤差が発生します。自分の場合は円がやや楕円になる症状も発生しました。

また速度を落としても造形後にゴーストと呼ばれるもやもやが角度が変わる部分の周囲に発生しています。下のヤリスを見ていただくとわかりますが、1枚目、右のAnkermakeではしわが発生しています。速度を落とした左の灰色でも消し切れていない印象です。では、この辺を改善していきましょう。

ハードの調整 ベルトチェック

まずはベルト調整です。初期状態では私の物は結構ベルトがゆるめでした。特にY軸はダブルベルトなので2本のテンションが共通していることも大切になります。ベルト調整については下記公式Youtubeをどうぞ。Ankermake の公式動画は結構あります。メンテナンス関連も色々ありますので見るようにしてください。

調整方法はこれですが、どの程度にすればいいかは分からない

なお、ベルトの張力をどの程度にするのかはどこにも案内がありません。皆さんどうしているのかわかりませんが、ゆるみがあると寸法誤差が発生しますのでベルトを触って、中央部分を押したときにしっかり押しごたえがある状態にしました。純正状態から半回しくらい?だと思います。Yベルト一本をそのテンションにして、それに合わせてもう一本とX軸のベルトも調整します。かといってきつすぎるとモーターに負荷がかかったり、ベルトが切れたりしますので最終的には感覚になりますね・・・。

リニアアドバンス調整

リニアアドバンスの調整も大事です。初期値がどうなのかわかりませんが、私のM5は四角の角がやや出っ張る感じできれいに垂直が出ていませんでした。微妙なのは仕方ないですが傾向が明らかな場合、この調整で改善する可能性が高いです。

リニアアドバンスは速度差が生じた際に樹脂の単位時間当たりの押し出し量を最適化するものです。ちょっと難しいですがMarlinという3Dプリンターのファームウエアにある調整機能です。調整のためにはプリンターとフィラメント用のカスタムG-codeを作って造形する必要があります。本家の設定調整ページはこちら。

今回M5の調整にあたってはこんな感じに設定しました。どうしてもわからない場合は当方で作成したこのG-codeをAnkermake M5で直接造形しても大丈夫です。できれば勉強のためにも本家がお勧めです!
また、リニアアドバンス設定についてはyanさんの(Twitterリンク)下のページの解説がとても丁寧です。プリンターの種類等が異なり前半はM5には当てはまりませんがご確認ください。

Prusaslicerにおける私のお勧め設定(PLA)

設定自体は初心者の方だと面倒かなと思いますが、調整としては極めて普通、よくある設定です。前期のジャークを明示するのとリニアアドバンスの設定をするくらいです。低下する速度はプリント速度で補っています。構成設定は前編で紹介したものを使っています。吐出時の最大加速度は1500になっていますが、2500だとさらに早くなるかも。プリント設定は3Dbency用に壁3層、インフィル10%になっていますが、この辺りは造形に合わせて変更してくださいね。

※このスクリーンショットはα版の2.6.0 alpha5のものです。

もちろん、フィラメントのちょっとした違いで特にリトラクションの量や、フィラメントの温度は多少前後すると思います。自分は好みの問題で比較的リトラクションを少なくしています。造形するものによっても変わりますし、いろいろ試すのがお勧めです。

付属のベッドは優秀 必要ならケープを使おう

付属のPEIベッドは結構良いです。かなりざらつきの大きいベッドですがその分1stレイヤーの安定性が良く、失敗が少ないと思います。高さがあるものや不安定になるものはキチンとサポートを付けたりブリムやラフトを付けたほうがいいですが、冷えた後は剥がしやすいですしベッドへの磁力固定性も良好です。PLAを使っている限り、かなり優秀なベッドだと思います。

もし固定性に不安がある場合、お勧めはケープです。整髪料の無香料ハードが鉄板として多くの3Dプリンター愛好者が使用しています。プリンターのそばで直接かけると機械トラブルの元なので私は不織布(まあティッシュでもOK)に多めに吹いてからベッドに塗っています。必要なくなればお湯やアルコールで取ることが出来ます。ぜひお試しください。

高い造形品質と約2倍速(当ブログ比)が達成可能に

いかがでしょうか?これくらいの手間をかけると造形品質は一気に向上します。ゼロではないですがあまりゴーストも気にならなくなりそこそこの高速性と品質が両立します。ベストではないでしょうが、よっぽど文句もない品質になっているはずです。当方では小さく高速性が活きにくい3Dbenchyで造形自体45分、FDMtestで2時間ちょっとのスピードで高品質な出力が出来ます。FDMtestでは糸引きが出ていますが、かなり特殊な条件なので私はリトラクションは少なくしています。

3Dプリンターを使いこなしている先人の方々には知識が豊富で3Dプリンターをどんどん改造、改良し3Dプリンターで3Dプリンターを作るような偉人が多くいます。このAnkermake M5は無改造でトラブルなく、保証を受けながらこの品質と速度を両立できるので、予算が出せればトラブル少なく3Dプリンターの基礎が学べると思います。

私が思うM5の短所

  • ファンの音がうるさい
  • ベルトのオートテンショナーがない
  • エンクロージャーなし エクストルーダーもPLA仕様
  • ノズルも独自仕様 改造には向かない
  • 純正スライサーやモバイルアプリはアカウント制、1台しかログインできない

短所の多くは細かいハード的なところです。まず、騒音。冷却は良いのですが小径ファンが高速で回転するためうるさいですね。ベルトにテンショナーがなく、手動調整なのも初心者向きとは言えないと思います。ベルトは緩みが出るので定期的に調整が必要だと思います。

また、PLAを使用する場合にはよいのですがエンクロージャーがない為ABSなどの造形は困難です。また、私も知らなかったのですがエクストルーダーの仕様も高温用になっておらず、PTFEのチューブがヒートブロック内部まで入っているため、250度以上の造形はPTFEチューブ溶融による詰まりのリスクが高いことが判明しています。Twitterでもお世話になっているcaesarさんの右のTwitterを参照ください。私もとても勉強になりました。この場を借りてお礼申し上げます。

なお、これについては私と同様にAnkermake エンジニアがこのことを理解していない可能性がredditで指摘されています。少なくとも現時点では250度以上に温度を上げないほうがよいでしょう。ノズルも独自仕様で、kaikaノズルなどへの換装は出来ません。基本的にメーカー保証範囲に則って無改造で使用する前提のプリンターです。

また、Ankermake アプリの制限でログインが1IDあたり1端末しかできません。デスクトップとノートPCで同時にプリンターと接続できない仕様は残念です。ID単位で認証するので、スペース等で共有する場合は実質USBメモリでgcodeをやり取りする古典的な方法になるかもしれません。

私が思うM5の長所

  • 初心者でも大きな問題がない操作性
  • 素性が良く安定 速度と品質のバランスは良
  • 耐久性があり扱いやすいビルドプレート
  • ネットワークへの親和性 AIカメラの将来性
  • エンジニアも勉強中とのこと 成長の余地あり

やはり初めて3Dプリンターを扱う方には親切に出来ています。ガイダンスが色々あったりトラブルシューティングが液晶に表示されるなど初心者に優しいつくりになっています。(頼ったことはないですがおそらく)公式サポートもきちんと対応してくれるのではないかと思います。新技術は搭載されていませんが剛性が高く素性のよい筐体で、組み立て、初期設定、フルオートレベリング、造形まで問題なく行え、ちょっとした工夫で必要十分なクオリティが手に入ります。接続するコードもUSB-Cがメインで配線の取り回しも楽ですし、フィラメントを側面から入れる方式も絡まる心配がない点は評価できます。前にも書きましたが買って何も考えず普通に造形できるっていうのは現時点で素晴らしいことなんです。まだ3Dプリンターは電子レンジのような家電にはなっていません。10万円程度の予算で選ぶ中では3Dプリンターとしてユーザーのすそ野を広げてくれる商品になっていると感じました。

ビルドプレートも少なくともPLAを使用している範囲ではかなり扱いやすく、定期的にアルコール含有お手拭きで拭いたり、前述のケープを使うなどで長持ちしそうです。頻繁に買い替える必要性がないのはうれしいですね。

ネットワークの機能はまだ開発中で、AIカメラ等まだAnkermake 自体が上手に扱えていない機能もありますが総じて便利になっています。ネットワーク経由で使う場合にはSDカードもUSBメモリも不要です。ネットワーク周りは親企業が得意な分野なので今後も期待できると思います。

エンジニアもまだまだ勉強中らしくファームウエアによって本体の挙動も結構変わっており、この3か月でも成長していることを感じます。ハードの素性が悪くないため、今後もソフト面で成長が期待できます。(まだ完成してないという意地悪な言い方もできますが・・・)実は今後、6色カラーで造形するための拡張パーツも開発中で、ちゃんと実現できるかと共に当分興味深く見守れると思います。

Snapmakerの優秀さも分かりました

私が以前から使用しているのはSnapmakerですが、Ankermake M5を使っていてSnapmakerの優秀さも感じました。2年以上前に発売されたプリンターですが速度以外の多くの長所をAnkermakeと共有しています。エンクロージャーもあり材料も選ばず、とても良いものです。

今でもまあ、まだまだなのですが、このブログの最初、2年ちょっと前に3Dプリンターを触るまで私は全く何も知りませんでした。初心者でも使いやすいに違いないと大枚はたいて購入した価値は十分にあったと感じます。最新のSnapmaker Artisanは30万越えですが、比較的強力なレーザーとCNCも付いた大型機なので仕方ない価格かな・・・買えないし置く場所もありませんが(笑)Snapmakerが私の一押しであることは変わりません。レーザーとかCNCもやりたい方にはとても良いので是非ご検討ください(笑)

最後に

3Dプリンター関連の進歩は早いです。ハードソフトともどんどん便利に進化していくのを感じます。この3Dプリンターはかなり安定したプリンターで、そのままで長く付き合える商品です。一方積極的にいじったりどんどん改変したい方はこれを選ぶべきではないでしょう。また、現在のところABS等高温が必要なフィラメントは向きません。同じ仕様で長く使用する現場、機械に詳しくない私のような方にはお勧めしやすい、実にAnkerらしい商品だと感じました。

造形がうまくいかない場合、設計が悪いのか、設定が悪いのか、プリンターが悪いのか、それらの複数が絡んでいるのかわからなくなることが良くあります。Snapmakerもそうですが、プリンターそのもののには問題がない、ということが分かっていれば後はスキルの問題です。考える点が一つ減るだけでも初心者にはありがたいと思います。

結論として、Ankermake M5は2023年3月時点で10万の予算が捻出できるなら初心者中心に十分に価値がある商品です。少なくとも当ブログの設定くらいでPLAにおいてはトラブルなく、安定感、品質、速度のバランスが取れたハードが手に入る、これはとても素晴らしいことです。

ベストはベターの敵。最新のハード設計ではないために安定性が高く、私と同じような素人でも最小限の手間で扱えるのはAnkermakeの利点だと思います。最新のCoreXY機で調整もいらないような優秀な3Dプリンターが安く出回るようになるまでは悪くない選択肢になると考えます。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!