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フィラメントを暖めて乾燥 SUNLU Filadryer S2レビュー 360度全体から暖めて湿気を追い出せます

2022年6月27日

日本の高温多湿の環境はFDM方式3Dプリンターにとっては望ましくない環境です。材料であるフィラメントは種類にもよりますが空気中の湿気を吸収し、造形に悪影響を与えます。これを防ぐため私も普段からドライボックスを使用し、吸湿を防いでいます。今回はより積極的に湿気を追い出し、場合によってはフィラメントを復活し造形を改善してくれるというフィラメントドライヤーのレビューをさせて頂きます。

はじめに

本記事は株式会社サンステラ様よりいただいたレビュー企画にて実現した、Filadryer S2の先行品を使用したレビューになります。このような機会をいただいたサンステラ様にこの場を借りてお礼申し上げます。私の3DプリンターはSnapmaker2.0なので実はサンステラさんが扱うプリンターは使用したことがないのですが、私が普段からよく利用するPolymaker社のフィラメントは日本ではサンステラさんが扱っています。今回はTwitterを通して物欲のままにレビューキャンペーンに手を上げ採用いただいた次第です。サンステラの扱う商品については下記を参照ください。

当方では今までもフィラメントの吸湿にはドライボックスで対策を行なっておりましたが、Twitterにある通り、積極的に加温するタイプのものは初めて利用します。もしよかったら当方のフィラメントホルダーの記事などもぜひ。

疑問に思った点や問題点についても扱い、ご覧いただく方の参考にしていただければと思います。なお、レビュー企画ではありますが、当ブログの他記事と同様、忖度はありませんのでご安心ください。

そもそもどうして吸湿が悪いのか

ところでどうして吸湿が3Dプリンターでの造形に悪影響を与えるのでしょうか?特に日本は高温多湿で有名ですし、風土的な問題は解決できないので気になるところですよね。吸湿が材料に与える影響については色々な情報が出ていますが、個人的におすすめなのはご自身でフィラメントを製作、販売されているNature3Dさんのブログになります。是非ご参照ください。

もちろん材料の種類によっても影響の範囲は異なりますが、吸湿してしまったフィラメントを使用して造形するとノズルから「パチっ」という音が聴こえたりします。リトラクションが不適切でも気泡が入って同様の現象が起きますが、この音が聞こえたところで樹脂の吐出が途切れたり細くなったりして造形に悪影響を及ぼします。他にも上記ブログ内にもある通り、樹脂そのものの加水分解の促進や糸引き、融点の上昇など様々な弊害が生じることがお分かりいただけると思います。

ドライボックスなどで適切に管理しているフィラメントは印象としては長く使えますが、多少の吸湿は避けられないと言われています。フィラメントドライヤーはこのフィラメントのコンディションを整え、造形品質を改善してくれる可能性がある点でとても興味深いです。

SUNLU FIladryer S2って?

SUNLUは中国の3Dプリンター関連の企業で、今回のフィラメントドライヤーの他、3Dプリンターそのものや部品、フィラメント等を扱っています。日本とのつながりは今まで薄かったようで、今回を機にサンステラが代理店になるとのことです。海外販売元SUNLUのHPはこちらになります。

今回のフィラメントドライヤーはS2という名前の通り、前身であるS1が存在していました。S2はその後継として誕生した第2世代のフィラメントドライヤーです。S1と比較して下記のような機能強化が図られているのが特徴です。

  • 360度リング状のヒーターによりむらなく均一な加温が可能
  • 最高70度までの高温に対応、フィラメントプリセットが存在
  • より見やすい大型バックライト付き液晶表示と一部タッチパネルによる簡単操作
  • 温度、湿度表示に対応し、タイマー運転が可能
  • よりスタイリッシュな外観

世界で見るとKickstarterで先行販売されていますが、日本では今回提供頂いたサンステラ様が主催する下記グリーンファンディングのサイトで販売が始まっています。国内での販売だけあってACアダプタも含むPSE認証も取得されており、国内でのサポートが受けられます。気合入ってますね。

なお、現在はクラウドファンディングが終了し、サンステラモールで販売中です。

特に面白いのはフィラメントをぐるっと360度覆うヒーターです。基本的にはヒートベッドみたいなものをほぼ1周巡らせてそれで加熱する仕組みになります。温度がわかりやすいのも良いですね。PLAだとデフォルトで50度が指定されており、プリセットされたフィラメントの種類を選ぶだけで操作が完了するのも良いと思います。下に一部ファンディングサイト等の公式から許諾いただいている写真を載せておきます。ACアダプターを含むPSEマークの取得や、特徴のわかりやすい一覧などご確認ください。

実際の製品

さて、実際に届いた製品がこちらになります。非常に好感が持てる1kgのスプールが収納できる最小限のサイズで、重量も軽いです。これから販売される商品はACアダプタのPSE認証がつくなど若干の変更があるとのことですが、基本的な製品構成は同様でしょう。
蓋の内部は一般的なフィラメントホルダーと同様の作りになっていて、その外周を覆うようにヒーターが取り付けられています。

なお、使用する際には注意書き通り、フィラメントが緩んでヒーターと直接触れないようにする必要があります。気をつけてください。またこの商品の特徴として加温、除湿しながら使用できる、という点も挙げられます。フィラメントの出口が設けられており、ここからフィラメントを引き出して造形に直接利用できます。引き出す穴部分はフィラメントに対してゆとりをもって作られており、ちょうどボーデンタイプの3Dプリンター用PTFEチューブ(内径2mm、外径4mm)が接続できるようになっています。交換用の部品も複数付属していて好感が持てます。

我が家のSnapmakerはダイレクトエクストルーダーなのでチューブは不要なのですが、フィラメントの取り回しに便利なので自作ドライボックスで使用しており、同じような感じで3Dプリンターに送ることが可能でした。

操作についても基本的にはパネル下部にある「set」をタッチして上下を選んでいくだけなので説明書はほぼ必要ありません。液晶時計と変わらない難易度で間違いは生じないと思います。

対流と水蒸気の拡散はどう?

さて、実際の使用についてですが、当初の不安として「そもそも本当に除湿できるのか?」という疑問がありました。この製品、今までお示しした写真通り構造としては比較的単純でファンがないんですよね。温度を上げて湿気が空気中に放出されても風や対流がなく水蒸気が拡散しないため、あまり乾燥しないのではないかと思いました。

この問題は当初海外で行われたKickstarterでも当然ながら提起されており、SUNLUの回答が以下の通りなされています。

Many friends worry that there is no fan in the drying box, so the moisture cannot be discharged, and the filaments cannot be dried. Our professional answer is here:

There’s no fan inside S2, because 360° embraced heating no need fan. The humidity inside the box will be decreased from 75% to 15% within 2 hours. The change of humidity can verify this point.

Besides, our S2 is not 100% sealed, the moisture won’t trapped inside.

So please don’t worry about fan problem.

https://www.kickstarter.com/projects/sunluofficial/sunlu-filadryer-s2-effective-support-3d-printer-creation/faqs

360度ヒーターによってヒーターが不要になっている(ボックス内の湿度は2時間で75%から15%に低下する)。また、完全に密閉されているわけではないので湿気がこもることはない、ということですね。このヒーターがどんな対流を生むのかちょっと専門外の私にはわかりませんが、除湿の観点からいうと密閉度が高いのは好ましくない気がするので、個人的には除湿時はS2の蓋をかっちり閉めすぎないほうがいいと私は思います。

湿度計のズレが判明

今回のレビューには一つ誤算があって、送っていただいたS2の湿度計が明らかにズレていたんですよね・・・。具体的にいうと実際の相対湿度より下手すると15%以上高い値が出てしまうんです。我が家で運用している温湿度計は複数ほぼ正確な値を出すことがわかっているのですが、S2内にその湿度計を入れて湿度が20%程度に下がってもS2が示す湿度は30%台後半にしかなりません。このせいで気分的に除湿が出来ていない感じになるんですよね。こちらの問題は既にサンステラ様に報告させていただいており情報を共有しておりますが、もし購入された方で同様の問題があった場合はサンステラ様に問い合わせをお願いいたします。

ダンボールスプールを除湿 効果は絶大

では、いよいよ本当に除湿ができるのか、確認です。使用したのはPolyterra PLAの段ボールスプールです。ご存知の通りダンボールは湿気をよく吸います。この季節その辺に放置したダンボールスプールの重さを除湿前後で測ればこのフィラメントドライヤーの性能が確認できるのではないかと考えました。ちなみに実験前のPolyterra PLAのスプールは実測190gでした。(スプールには約200gと記載)これをFiladryer S2に入れて温度55度でスイッチオン!なお開始時の湿度は約50%でした。

まず生じた変化として、内部の湿度がどんどん上昇していきます。記録した湿度は最高で93%。15%乖離があるとしても80%近い湿度です。その後時間経過で徐々に低下していきました。最終的に6時間が経過した後S2の湿度計は41%でしたが、スプール中央部に置いた私の湿度計は20%になっていました。段ボールスプールもほかほかです。さて、重さの程は・・・・

なんと、184gと6gも減っていました!!これは普通にびっくりしました。ダンボールってこんなに水吸うんですね。この吸水率は樹脂の比ではないですのでダンボールスプールフィラメントの吸湿にはかなり気を使った方が良さそうです。当然、これと接する樹脂はどんどん吸湿が進むと思われます。最近Polymakerさんのフィラメントは環境に配慮してダンボールスプールに変わってきているのですが、日本の夏での運用はかなり注意した方がいいのではないかと思いました。

当方保管のPETGフィラメントでは差が出ず

また、皆さんが関心あるであろう造形物そのものへの好影響については、当方でははっきりしませんでした。これはS2の問題というよりも当方の問題もあると思います。今までも湿度には気を使っていたので状態の悪いフィラメントがなかったんですよね・・・。適切なフィラメント管理がなされていると効果が確認できないのは仕方ないですが、逆に今まで私がやってきた工夫が間違っていないことが証明された証左でもあり素直に喜ぶことにします。

一応下にお出ししますが、半年以上防湿庫で保管していたPETGを利用した造形です。いつもの船を作ってみたのですが、正直あまり差がありません。というか除湿前の状態で十分綺麗に造形できているため、向上する余地がない印象です。悪いフィラメントを持っていないのが仇となりました。すいません。

PLA製スプールは55度でも変形 自作スプールでの運用は注意

一つ使ってみた注意点としては温度設定があります。デフォルトの50度設定では大丈夫だったPLA製スプールは55度にしてみたところ変形してしまいました。(スプールの造形データは先にご紹介したNature3D様のデータになります。)PLAのデフォルト設定は50度なのでいじらない方が良さそうです。特に金属製のスプールを支える部分は設定温度より高温になっていると推測されます。自作スプールを使用されている方は出来ればABSで作った方がいいんじゃないかと思いました。ちょっと反りやすいし、作りにくいとは思うのですが・・・。

造形でも使える除湿乾燥機としておススメ 保管はドライボックスを

フードドライヤー等の流用では対応が出来ない、造形中にも継続した除湿が行える特徴を持つこの製品はとても興味深く、また実際に除湿がしっかり行えることも分かったため、レビューキャンペーンさせていただいた当方としても安心しました。造形中フィラメントが無防備になっている方には特にお勧めできる商品だと思います。造形品質そのものの向上は私の環境では目に見える形では確認できていませんが、状態が悪いフィラメント程その効果が分かるはずです。一般に販売されているフィラメント材料のほとんどにプリセットがあるため迷うことがない点も初心者に優しい仕様だと思います。

ただ前述の通りこの商品そのものはフィラメントの長期保管には対応していませんので、通常は密閉可能なタッパー等と除湿剤を組み合わせたドライボックスに保管することをお勧めします。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!