Snapmaker U1がやってきた! 一般向けツールチェンジャー時代の幕開け ベータテスターレビュー その1
普通に使える、買える一般向け量産ツールチェンジャー機がやってきました。しかもSnapmakerから。ベータテスターとして一般販売より先に機材を送っていただきました。結論から言えば滅茶苦茶普通に、気にすることなくツールチェンジされます。ソフトウエア周り等修正点や改善点はメーカー側にレポートしていますが、機材としては完成された感があります。
はじめに
当ブログは恐らく日本一、もしかしたら世界一?「Snapmaker」って書いてあるブログだと自負しているのですが、そのSnapmakerさんとJRRF2025でお話しさせていただいた縁から、今回日本でのベータテスターとして実機を送っていただきこのブログ記事を書いています。Snapmaker様、並びにJRRF2025を開催してくださったゆーとろんさん並びにスタッフの方々に心から感謝を。
ていうか、当ブログの最初の記事を見て頂ければわかる通りもうすぐ約5年、ずっとSnapmaker2.0を使って頼まれてもいないのに勝手に推していたら最新機種のベータテストに参加させていただけるって、なんか夢がありますよね・・・。5年前の自分に教えてあげたいです。そんなわけでブログとしてはいつものスタンスと同様なるべく偏りない公平な目線で評価しなければならないわけですが、こればかりには若干偏るリスクがあることをお伝えしておきます(笑)。ちなみに当ブログ最初の3Dプリンター記事はこちら。続けるって大事かもしれませんね・・・!
今回の記事内容についてはベータテストであるため特にソフトウエア周りなど挙動が変わる可能性があること、また勝手に分解などは出来ないなどのLimitationも一応あることはお伝えしておきます。
Snapmaker U1 「手が届く」ツールチェンジャー機の誕生
さてご存じの方がほとんどかもしれませんが、今回のSnapmaker U1はSnapmaker社から発売される4ツールの3Dプリンターで、Kickstarterで2000万ドルの資金を調達した猛者です。SnapmakerとしてのKickstarter利用はそれこそ私が今でも使っている2019年に行われたSnapmaker2.0の時以来となります。(途中発売のJ1、Artisanは行っていません。)Snapmaker2.0の時の調達額は785万ドルですので時代が異なるとはいえかなり強烈です。
とはいえ同じ「Snapmaker」の名がついていても本質的にU1は過去のものとまったく異なるものです。私がずっと推していたSnapmakerは3Dプリント(シングル、デュアルノズル)、レーザー(半導体、赤外線)、CNCなどの全く異なるヘッドを「Snap」していたわけですが、今回のU1は3Dプリントに特化したツールを「Snap」しています。むしろIDEXのJ1に近いかも??
このマルチツール、ツールチェンジャー対応機ってあまり存在していなくて、2025年10月時点ですと、量産、販売されているものはPrusa XLだけ、近日ではPrusaのCORE ONEシリーズとタッグを組んだBONDTECHのINDXや、マルチツールとはちょっと異なるBambuのVortek機構を搭載したH2Cが登場予定くらいです。サイズやエンクロージャーetcなど違いが大きいので一概に比較出来ませんが、Prusa XLが1ツールでも余裕の30万越え、INDXもCore ONE20万に4ツールつけるとして30万近くになる可能性がありそうです。H2CもH2SComboが25万なので30万コースになると思うんですよね・・・。
そこに突然バーンと定価ベースで1000ドルのSnapmaker U1が発表されたわけで祭りになるのも頷ける話です(笑)。
なお、私も使用しているオープンソース自作機系列のVORONでもStealth Changerというオープンソースのツールチェンジャーもあるのですが、これも4ツールそろえて自作するとかなりのお値段になります、調整等含め中々平坦な道ではなさそうな印象を受けます。(違ったらごめんなさい!!)つまり、存在するしすごくカッコいいけど手が届かない高級外車みたいなイメージのツールチェンジャーの中、このSnapmaker U1は「手が届く」ツールチェンジャーの先鞭になったといっても過言ではないでしょう。
ツールチェンジャーの利点 ノズルが多いと楽しみの幅が広がる
さて、ツールチェンジャーの魅力は多種類の材料が同時に使える、色替えにパージがほぼ不要で高速、という点が挙げられます。シングルノズル機は材料が混ざらないよう色を変えるたびに通称poop、材料が混ざらないように捨てる樹脂が出てくるわけですが、コレがなくなるのが一番大きいと思います。当ブログでもご紹介したAD5Xはシングルノズル機として抜群のコスパ機なわけですが、色替え時は大量のごみが出てしまうのは避けられません。
6万以下で4色対応を実現しているプリンターはそうないので素晴らしいのですが、実際大量生産してモノを売る人以外、マルチカラーをやっている方はモデルの高さが低いことが多いのはゴミの多さが原因です。背が高くなるほど色替え回数が増え、トータルで押し出すフィラメント量が増えるためフィラメント消費量が増え、エクストルーダーやノズル周りのメンテナンス頻度や交換コスト等も重荷になるんですよね。(私もAD5Xでいくつか試したのち、実は高さのあるマルチカラーはあまりやっていません。)
またマルチツールは異種材料でも効果を発揮します。当方では既にBambu H2Dのような2ノズルのデュアルノズルの使用経験もありますが、異種材料はノズルを分けたほうが無難だと感じています。混ざると特性がどうなるか分からないんですよね・・・
実は私もまだU1ではあまり異種材料にチャレンジしていませんが、サポート材を分けたり、TPUとの組み合わせが高速で行えるのは非常に魅力的です。Snapmaker2.0のデュアルノズル記事も良かったら見てみてください。
ただ、Cura系のパージタワーと異なりOrcaやPrusa Slicerのパージタワーはノズル同士の混在で出来ます。相性が悪い素材で作ったタワーが途中で崩壊しないのか、ちょっと今後の動向を見守る必要があると思います。
4ツールがついてこの値段 フィラメントも2kg付き!
そこでこのSnapmaker U1。Kickstarterの発表時、デポジットまで含めると確か事前登録ありだと700ドル以下で結構な数の方が目が点になったと思います。そもそもSnapmaker2.0の時も含めSnapmakerって高いイメージだったんですよ。Snapmaker2.0は今でも見劣らない先進性のあるプリンターでしたが定価ベースで20万でした。だから値段が出る前は「でもお高いんでしょー」って私を含む皆さんなっていたと思います。
マルチツール機が高くなる最大の理由はツールヘッド数に比例してかかるコストです。INDXもVortekもスペースの制約とコストを下げるために工夫していると思われますが、Snapmaker U1はモーターからエクストルーダー、ホットエンドからノズル、全部x4のコストがかかる訳で、1個5000円だとしてもそれだけで2万円かかっちゃいます。(ツールヘッドは公式ストアで65ドルで売ってます)このスペック、270mm角を造形できる普通のCoreXY機でツールヘッドが4つついて定価ベースで16万くらいという値段の安さは驚異的だと思うんですよね。最安値なんて円換算で約11万ですよ。やばい安さです。
ちなみにマルチカラーのためにフィラメントも500gx4の2kgが付いてきており、届いたその日からマルチツールデビューできます。太っ腹で素晴らしい!
ということで簡単なスペック表も記載しておきます。
| 項目 | スペック |
|---|---|
| キネマティクス | CoreXY |
| 造形サイズ | 270 × 270 × 270 mm |
| 最大移動速度 | 500 mm/s |
| 最大加速度 | 20,000 mm/s² |
| ツールヘッド数 | 4 |
| ノズル径 | 0.4 mm オプションで0.2、0.6、0.8mm 現時点で混在不可 |
| 最大ノズル温度 | 300 °C フローレート32㎣/s |
| 最大ベッド温度 | 100 °C |
| パーツファン | ツールヘッド+ 補助ファンあり |
| トップカバー | オプション (パッシブチャンバー:max50度程度の予定 フィルター付き) |
| カメラ | 2MP ライト付き |
| 接続 | Wi‑Fi(2.4GHz)、USBメモリ、アドオンポートx2 |
| 復帰・検出機能 | フィラメント切れ検出、停電復帰、プリント失敗検知、ツールヘッド交換エラー検出、ベッド検出等 |
| 自動調整機能 | 自動メッシュレベリング、ツールオフセット自動校正、流量自動補正、インプットシェーパー。 |
| ファームウェア | Klipper(webIF:Fluidd) オープンソース化予定 |
| 推奨スライサー/ソフト | Snapmaker Orca / OrcaSlicer / Snapmaker App |
うーん、極めて真っ当です。致命的な欠点がない。上面開放なのでアクティブチャンバーがないといえばそれが弱点ですね。パッシブのカバーは出ますが、60度とかは無理です。他の条件や筐体を考えても基本的にはエンプラ向きではありません。コンシューマー用途ですね。他は強いて言えば有線LAN・・・?ほかは日本的に気になるのは標準だとフィラメントがむき出し、という点かな。ただフィラメントを引き戻す機構は不要なため、ドライボックスから直接フィラメントを供給することも問題なく出来ます。シンプルなのも利点ですね。
またPressure Advanceの流量補正機能が実装されています。これはまだ自作機ではあまり出ていない欲しかった機能です。Bambuで見ていていいなと思った機能なので、おおっ思った方も多いはず。
アンボックス的な部分 サイズ感など
ほぼ割愛して写真だけになりますが、さすがに大きいですし重いです。ベータユニットですが緩衝材等の構成はおそらく製品版と同様なのではないかと思います。マルチツールなので付属物は多く、最初の設置にはそれなりに手間がかかります。さすがに箱出しポンですぐには使えませんね。詳細な説明書はついているのでそれに従いながらやれば大丈夫です。
サイズ感を他のプリンターと比べてみました。我が家のAnkermakeとフットプリントはほぼ同様です。また印刷サイズの小さいAD5Xも並べると小さく見えます。大きさはあれど横方向から見たでっぱりはありますが形状としてはかなりスマートで白物家電っぽい感じがあります(笑)。
外観の個人的な見どころ 外装と面白いZ軸構成
では次に外観とデザインです。このプリンター、一番コストを削減しているのは恐らく外装です。白基調で家電っぽくデザインは洗練されていますが、多くの外装部はプラスチックです。内張りなんかも容易に外れます。何なら最初のテープをはがす時ですら爪が外れます(笑)。フレームはしっかりしていますし分解しやすいってことで個人的には問題ないのですが気になる方はいるかもしれません。左右計4つ付くスプール取り付け部分も本当にはめ込むだけのものです。引き戻し機構が必要ないので回るだけの機構です。Snapmaker2のすごい塊感とは逆な感じで同じメーカーなのに面白いですよね。
全体のデザインは非常に興味深くて、ぱっと見で目立つのは扉側から見て後方が透明アクリルパネルな点です。スタイリッシュ。壁に寄せる使い方だと目立ちませんが、このプリンターを特徴づけているデザインです。側面から見ても面白くて、出っ張り部分はABモーターが収まっている部分とその間のツールヘッド保管部分です。スペースを有効活用するためにツールを置く場所をモーターの間のデッドスペースに入れた感じですね。
その分、通常後方にあるロッドは撤去され、ベッド側(Z軸側)のコンポーネントは一般的な構成と比較すると90度回転させた感じになっています。側面側が正面になっている感じで通常のプリンターの背面部分が向かって左側になり、2つのロッドの間に補助パーツファンが取り付けられています。向かって右はライトが付いているという構図です。面白いですよね!!
CoreXY機の構成としてはひねりは特になく、X軸のロッドはカーボンです。BambuのX1C等で実績がありますが、長期使用してみないと分からないことも多いですね。他は一般的なリニアロッドです。AD5Xと比較するとやや径が太いです。リニアレールでないですが、このサイズのプリンターとして特に不都合はないと思います。
フィラメントフィーダーは左右に2つつける形で挿しこむとツールまで引っ張られます。但し使用しないことも可能で、後方から手動でフィラメントを供給することも出来ます。左右にフィラメントを設置するのはスタイリッシュなのですが、日本だと湿度の問題もあるので色々使い方が出来るのはいいですね。個人的にはフィラメントフィーダーを移設するのもよさそうで、延長ケーブルとかで取りまわせると嬉しいかも、と思っています。
後面のpoopボックス、信じがたいことにほとんど使わないです。まだ一度も捨てていません!
ツールチェンジャーについて キャリブレーションが特徴的
ツールチェンジャー部分も非常に面白くて、まず、全部同じかと思いきや実は違います。具体的には向かって一番左の1番エクストルーダーのみ、その他の物とは左右対称形になっています。
これは1番ツールをピックアップする際にそのすぐ左側にモーターがあるため、他のツールと異なり取り出す際の動きが逆になるからです。部品が異なるため、壊れて購入する等が発生した時には注意が必要な点になりますが、これはサイズを小さくするための工夫です。ツールチェンジャー機はPrusa XLもそうですがある程度大きいほうが基本的に設計しやすく、ただ大型化すればするほどコストも嵩みます。Snapmaker U1のサイズは大きすぎないようにする工夫が先のz軸も含め随所に見られ、これによって定価1000ドル以下を実現していると思います。
他方でツール間で印刷位置を一致させるプロセスはかなりしっかりしていて、キャリブレーションは特徴的です。ノズル位置のオフセットを厳密に一致させるためキャリブレーション時には一度ビルドプレートを外してベッドの向かって左奥にある穴にノズルをそっと色々な方向に押し当てることでオフセット量を算出しています。おそらくメッシュレベリングにも使用しているロードセル検出のセンサーで値の変化を読み取っていると思われます。
また、この穴はベッド検出にも利用されており、ベッドをつけ忘れるとアラートが出て教えてくれます。このベッドも個人的には良いと思っていて、ベッドの辺縁ギリギリまで磁石が見えるんですよね。反りやすい素材等を使用するとベッドへの定着を工夫してもビルドプレートごと反ってしまうことがあるのですが、このベッドはかなり磁力が強いです。現時点では上面が開放なので試していませんがABS印刷には威力を発揮すると思います。
そうそう、Snapmaker U1のホットエンド部分は最近はやりのワンタッチ交換タイプではありません。ノズルからヒートシンクまで一体化され、サーミスタやヒーターも一体の「コンベンショナルな」タイプで交換は手間です。なぜワンタッチにしなかったのか(Snapmaker2.0のデュアルエクストルーダーは古いけれどワンタッチで下)と思ったのですが、おそらくこのマルチツールの精度を確保するためだと思います。外から固定する方式だとちょっとした動作でわずかにずれる可能性がありますし、ロードセルの値を読み取る際も支障が出るのかも??と思いました。
なお、このツール間のキャリブレーションは頻繁に行う必要はなさそうです。実使用でずれが生じたり、ホットエンドをいじらなければそのままでよいのではないでしょうか?(ツールオフセットのキャリブレーションには10分以上の時間がかかります。)
Bambuを意識した各所 但しFluiddもアクセス可
さて、最近は圧倒的シェアを持っているBambuはおそらくSnapmakerのライバルです。U1とは直接的に競合しない(BambuはH2Cでホットエンドチェンジャーっぽい感じになる予定。)のですが、Bambuの良さの一つはユーザー体験(UX)の向上にあります。私はSnapmaker2.0でそこそこ慣れていましたが、それでもBambuの使いやすさはよくわかります。
そのうえで使っていると今回のU1はやはりBambuを強く意識して作られており、アプリ対応やOrcaスライサーでのフィラメント選択、同期、クラウド経由でのデータのやり取り、遠隔でもプリントスタートが可能であったりカメラが見られる等Bambuユーザーが出来ることはできるようにしている、という印象を受けます。
そのうえで、さらにファームウエアはKlipperでオープンになる予定となっており、LAN内でのwebインターフェースはFluiddが採用され見ることが出来るようになっています。本体から「Advance mode」をonにすればPrinter.cfgも変更が可能です。
このオープンにする方式はBambuでは決して見られない傾向で、個人的には非常に好感が持てます。どうでもいいけれど、なんでツールは32個あるんだ・・・??そうそう、メッシュレベリングは当然オートで補正されるのですが、U1のベッド下側には実は昔ながらのダイヤルがあります。今までのSnapmakerではなかったはずなのでもしかしたら初搭載かも??(Jシリーズはわかりませんが。)
ダイヤルで元の平行をなるべくとってからオートでレベリングし直すのが一番よさそうです。
ベータテスト中ではあり小さいトラブルに関してはSnapmakerに報告しつつ使用していますが、ソフトウエア周りは既に完成度が高いと思います。
自信が現れた4色印刷 その2に続く
では実際の印刷品質は、というとそもそも4色で印刷しなくてもクオリティは十分高いです。1stレイヤーもムラなくきれいに出ますし、bambu風の印刷前の準備(z-offset確認のためノズルについた樹脂をふき取る動作など)もしっかりしています。
初回キャリブレーション後のテスト印刷は内蔵のファイルで行われますが(製品版で変更される可能性もあると思います)可愛いドラゴンのマスコットが印刷されます。そこそこのサイズなので数時間かかりますが素晴らしくきれいです。モデルのきれいさももちろんですが、ツールの位置決め精度を見るために有用なのはワイプタワーです。ワイプタワーはまっすぐ積まれるため、位置ずれがわかりやすいんですよね。これを見ても全くブレがありません。現時点でツールチェンジ回数は4つで延べ9000回を超えたくらいですが、色々いじったのち一回キャリブレーションを行っただけです。それくらいにずれません。
ちなみに公式では接続部の端子、pogoピン部分の耐久性が記載されており250,000 回とのことです。この部分はツールヘッドの基盤交換が可能となっており、既に交換部品もストアに出ています。これx4ということなのか、このツールヘッド「U1 SnapSwap™ システム」全体での耐久性は1,000,000 回と記載されています。
ガシガシ4色印刷をしているとどんどんカウントが増えると思いますが、実際どのくらいで何が起こるのかは、正直やってみないとわかりませんね・・・回数は本体でカウントされており適切なタイミングでメンテナンスするよう促されるとのことです。ポゴピン以外の部分(ボールとか)の耐久性は不明ですが、いざとなればツールヘッド側はそのまま交換が可能ではあります。長期使用については1年くらいたたないとわからないかもしれませんね。
ということでその2に続く予定です!
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
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