3Dプリンター周辺に使うものは難燃性フィラメントが安心かも? Rreprapper 難燃性ABSレビュー
値段もお手頃で燃えにくいフィラメント。3Dプリンターはヒートベッドやエクストルーダーなど熱を多く使う機器であるため、火災のリスクがあります。万一に備えて周辺はなるべく燃えにくいものを、ということで今回は難燃性ABSの紹介です。難燃性とは?もちょっと調べてみました。
お値段お手頃、Reprapper 難燃性ABSについて
最近、Ankermakeのエンクロージャーをダイソーポールラックをフレームに作成したのですが、印刷パーツを多用するため燃えにくい素材を探していたところ見つけたのがこのReprapper難燃性ABSです。前回もちょっと紹介したのですが、ちゃんと紹介しようと思って別記事にさせて頂きました。あ、お金もフィラメントももらってませんよ(笑)
さて、一般的にABSは石油製品なので燃えます。ABSについては一回火が付くと消えにくいとされており火災時の被害拡大につながると思います。3Dプリンターが原因の火災は海外では報告があるようですし、普通に考えても樹脂を加熱するヒーターやヒートベッド、比較的容量の多い電源等燃える要素は複数あります。ましてやプリンターを囲うエンクロージャーですから燃えにくくはしたいですよね・・・ということで購入しました。Amazonリンクも貼らせていただきますのでよかったらぜひご確認ください。
どうですか?ともすれば通常のABSより安いくらいで非常にコスパが高いですよね。それでいて難燃性としてのグレードは「UL94-V0レベル」とのことです。うん、凄そうだが何のことかわからない。ということで調べてみました。
難燃性のグレードについて
まずはUL規格から。ググってみると摂津金属工業さんのページに色々書いてありました。元々はアメリカの火災保険会社の協会が策定した規格とのことです。その中でUL94はプラスチックの燃焼試験の基本となるもので、クランプ下試験片にガスバーナーをあてて燃焼試験を行うものです。燃えにくさによって等級が定まり燃えにくい順から5VA、5VB、V-0、V-1、V-2、HBとなっています。
ただ、HBだけは毛色がちょっと違っていて、Vがつくものは自己消火性があり火が消えるのに対してHBは燃え続けても良いみたいで、イマイチな感じ(笑)
詳細を見てみるとまず最初に5がつくものは炎を5秒接炎させる動作を5回繰り返すことを指すようです。V-0からV-2までは10秒ですが一回だけ。(火が消えたらもう10秒追加)とのこと。ここに一つ大きな差があるわけですね。またVは垂直「Vertical」Hは水平「Horizontal」だと思います。試料が縦だと炎に包まれやすく延焼しやすいってことですね。HBは資料を水平にしているのでかなり毛色が異なりますが、接炎は30秒です。
これを踏まえたうえで各規格の違いを箇条書きしてみました。
- 5VA:60秒以上燃えない、燃える粒子を落下させない。試料に穴が開かない
- 5VB:最初は上と同じ。ただ試料に穴が開いても良い
- V-0:10秒以上燃えない。燃えるのは5個の試料計10回で計50秒まで。クランプまで燃えない。燃える粒子を落とさない。2回目燃やしても30秒以上赤熱しない。
- V-1: 30秒以上燃えない。燃えるのは計250秒まで。クランプまで燃えない。燃える粒子を落とさない。 2回目燃やしても60秒以上赤熱しない。
- V-2:V-1と基本同じだが、燃える粒子が落ちても許容する。
- HB: 厚さが3.05mm以上なら燃焼速度は38.1mm/分まで。薄い場合は76.2mm/分までか、資料の端から102mmまでで燃焼停止。つまり燃え続けてもいい
書くと難しい気がしますが、ぱっと見ではV-0とV-1は結構開きがある印象を私は受けました。HBは燃えにくいだけで一回火が付いたらおしまいですね・・・。今回のReprapperのものは十分な性能を有していそうです。3.05mmって半端な数字は、アメリカだからかな。
何で出来てるの?
ところでやはり思うのは、原則「燃えるはず」のABSがなぜ燃えないのか、ですよね・・・。ちょっと難燃性フィラメントについて調べてみたのですが、あまり確固たる情報が見当たりません。ただどうやら少なくとも私たちがよく見る難燃性ABSは多くが同じ素材を用いていそうでした。それがPOLYLAC PA-763というものです。奇美實業ってところのポリラックという商品シリーズ?なのかな。メーカー自体は台湾で、日本でもチーメイと呼ばれる比較的メジャーな樹脂メーカーみたい。
この会社、軟熱性ABSだけでも結構種類はあり、PA-763はその中では最も基本的なものでした。
一般的には「無機の難燃剤」と呼ばれるものが使われているようですが、基本的には燃えようとする際にABSから出る可燃性ガスを不燃性ガスで無効化している感じのようです。ABSだとどうやらアンチモンという種類のものがよく使われている様子。PA-763が該当するのかは分かりませんがwikipediaのリンクを貼っておきます。
個人的には炎が当たった際の煙にその秘密があるのではないかと思っています。でも混ざりものがある分、その分量が多ければ機械的特性が悪化するはずです。都営会えずReprapperのものはその副作用的な側面はあまり気にならなかったです。
なお、本当にこのPA-763がこのフィラメントに使われているかは保証できません。参考程度によろしくお願いいたします。
印刷容易で反りも少なく、扱いやすい印象
印刷条件は普通のABSとそう変わりませんが、後述する臭いもあるのでホットエンドはやや低めにしています。私が使用する範囲ではこの温度でも特に不具合はなく、層間の密着性も問題ありません。なお、VORONでそこそこ高速(250mm/s程度)で印刷してもクオリティの明らかな低下は認めませんでした。参考までに印刷条件を簡単に記載しておきます。
- エンクロージャーは必須も強い反りは見られず
- ホットエンド230度程度 リトラクション1mm
- ベッド温度100度
- ほか、一般的なABSと同様の条件で造形可能
実際の印刷サンプルがコチラ。上のものはちょっと前に出しているエンクロージャーやカバの貯金箱にAnkermakeで作ったものです。均一できれいな仕上がりです。ナチュラル色のフィラメントって初めて使いましたが、合わないものがないので用途は広そうに感じました。動画はVORONで印刷中のものです。それなりに高速でも問題ありません。
下が出来上がりです。Ankermake用のせめてもの脱臭、有害物質軽減を目的に活性炭フィルターであるNevermore V6を5V仕様にしました。元データに対してSTEPを編集してダイソーマグネットを埋め込めるように変更。フィルター側にも同様の加工を行って裏側からAnkermakeのエンクロージャーに張り付けています。ちょっと引っ張ったくらいでは落下しないのでしばらくこれで使ってみる予定です。
印刷はエンクロージャー付けたAnkermakeで行うことが多いですが、総じて扱いやすいです。難燃剤が添加されている影響がどう出ているのかはわかりませんがABSとしては反りもあまり気になりませんし収縮で割れたりしたことも今のところありません。品質としては普通に常用できると思います。次に挙げる欠点が気にならなければ・・・
唯一にして最大の欠点は臭い
そう、このフィラメント最大の欠点は印刷時のにおいです。通常のABSより臭いがきつい。脱臭や換気をしっかりして印刷するべきフィラメントだと思います。臭いの性状も普通のABSとちょっと違う感じを受けます。・・・文章で表現できずスイマセン。
とりあえず印刷後も結構臭いが残るので、エアコンとの相性は悪く、換気が必要です。健康被害があるようなものではないとは思いますが、同じ部屋にいないことを推奨します。Snapmakerで印刷してどでかい空気清浄機を使うとほぼ問題なく脱臭できますが、Nevermoreだと容量的に難しいですね。
3Dプリントする際に発生するUFPやVOCについては良かったらこちらをご覧ください。調べ方等、おそらく覚えておいて損はないんじゃないかと思いますよ!
燃えにくさはPsych0h3ad-P3Dさんが動画で検証済
臭いは気になりますし、自宅で安全に燃焼実験なんてできないなぁ、と思っていたら、なんとTwitterでお世話になっているPsych0h3ad-P3Dさんが動画を作っておられました。燃え方がよくわかるんじゃないかと思います。
いかがでしょうか?比較もしていただけているのですごくわかりやすいですよね!貴重な動画、感謝です。
見てわかる通り一般的なABSは火がついて燃えてしまうのですが、この難燃性ABSは煙は出るけど燃えません。(何度も言うけど臭いはかなりあります)この「自己消火性」がなんといっても難燃性の証です。この動画、貴重なのに再生回数が少ないんですよ・・・。みんなで見ましょう!
3Dプリンター回りの印刷物にぜひ!
モノによっては数百ワットを消費する3Dプリンター。数日動かし続ける可能性もあるわけで火災のリスクは少しでも軽減させたいところです。このフィラメントは上のリンクにある通り非常にお手軽、コスパ高く「難燃性」という強い特徴を持っている、個人的にはかなりお買い得なフィラメントだと思います。
臭いの問題はあるものの造形難易度が低く扱いやすいABSであることも含め個人的には認知度が高まってほしいと思います。臭いだって、万一火災の際延焼する前にこの臭いで教えてくれると思えばそう大きな問題ではないですよ。私は家族からクレームを受けつつもこのフィラメントを使っていこうと思います。まあ、できれば脱臭装置が充実しているSnapmakerが家族に喜ばれそうですが(笑)
皆さんも特に改造パーツが多い3DプリンターでABS+程の剛性が要求されない場所に対して、試しにこちらのABSを使用してみてはいかがでしょうか?
それでは今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
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