3Dプリンターを利用した「Glia project」の聴診器を制作 目指せリットマンのクオリティ

2022年6月10日

一家に一つあると役に立つ?聴診器。今回はGlia projectがGitHubにて公開している聴診器を作ってみました。流石に3Dプリンターだけでは作れないので追加でシリコンチューブとイヤホン用のイヤーピース、音を聞くための膜(チェストピースのダイアフラム)が必要です。我が家になぜかあるリットマンの聴診器を目指して制作しましたのでご紹介させていただきます。

医療機器も3Dプリンターを利用して作る Glia projectとは

今回製作したのは普段私が自分で設計して作っているオリジナルのものではなく、すでに公開されている聴診器のファイルを使って、日本で入手できる追加部品と組み合わせて良く聴こえる聴診器を作る記事になります。ということでご紹介させていただくのはカナダで立ち上がったのGlia Projectになります。公式ページはこちら。

このGlia projectでは医療で必要なハードウエアをより少ないリソースと費用で組み立てて、容易に利用できることを目指しています。現在公開されているデバイスは以下の3つです。

  • 聴診器
  • ターニケット
  • 耳鏡鼻鏡

ターニケットは上下肢の止血等に用いる、主に上腕や大腿に巻いてぎゅっと絞る道具です。医療現場では血圧計の親玉みたいな形で主に手術で使用されています。長時間(概ね2時間以上)使うと患肢の壊死リスクがあるため利用には注意が必要ですが、ガザでの戦争や最近は遠くウクライナで使用されているという話です。

耳鏡鼻鏡は耳鼻科の先生が使う道具です。ライトと拡大鏡が内蔵されていて耳や鼻などの奥が見えるようになっています。今回作る聴診器はホームページ上部のDEVICESから「Stethoscope」を選んでください。なおホームページでは寄付も受け付けています。賛同される方はご検討いただければと思います。私はとりあえず10カナダドル寄付させていただきました。

敷居が低く製作可能な聴診器 音はリットマン同等とのこと

聴診器は一般的?な誰でもご存じのお医者さんの道具ですね。使い道がありそうでかつ作りやすそうな、この聴診器を今回は作成してみることにしました。しかもこの聴診器、王道メーカーの「リットマン」と同等の性能を持つとのこと。本文中で触れられているリットマン社製のカーディオロジーは循環器の先生も使用する高級品(25000円以上するみたい)です。

もちろん勝手にそう言っているわけではなく、論文で発表済みとのことで確かにPLOS ONE というジャーナルに載っています。モデルを用いて周波数測定を行なったとのことで、その結果がカーディオロジー3と同等であったとのことです。英語ですがそのジャーナルがこちらです。

以前記事でご紹介したインパクトファクターがそう高い雑誌ではありませんが、ちゃんと査読された論文です。もしよかったら以前のブログもぜひご参照いただければ幸いです。

安価に3Dプリンターで作れる聴診器が果たして本当にそんなによく聴こえるのか、試してみたくなりますよね。
幸い我が家にはなぜかリットマンの聴診器があります。クラシック2seというベーシックな聴診器ですがせっかくなのでGlia projectの聴診器を実際に作って聴き比べることにしました

3Dプリントと部品集め ダイアフラムの素材、どうしよう

Glia project聴診器のSTLファイルは他のものと同様、GitHubにて公開されています。ファイルはPrusa slicerを使用しPrusaで作ることを前提にした3MFファイルです。下記ページにあるStethoscope X1というファイルが部品セットのものになります。

造形条件も明記されており、きちんと機能するようにインフィルは100%にするよう何回も記載されています。素材はPETGかABSで、積層は0.2mm設定となっており作りやすいです。ABSで作る際は反りやすいので少しブリムをつけると良いと個人的には思います。サポートは不要ですし、造形自体はそれほど難しくないです。

方で3Dプリンターで製作できない素材は自身で入手しなければいけません。必要なものもGitHubにきちんと記載されていますが、下記の物が必要になります。

  • シリコンチューブ
  • イヤーピース
  • プラスチック板

まずチューブです。2種類のシリコンチューブ(内径8mm、外径12-13mmのものと、内径4mm、外径8mmのもの)がそれぞれ50cm程度と20cm程度必要になります。ひとまずはamazonで購入しました。どちらも1M単位での購入なので何個か作れることになります。・・・そんなにたくさん必要ないけど。

イヤーピースはイヤホン用の物とありましたので自分のイヤホンにも使用できるfinal EのLLサイズを購入。このチューブとイヤーピースにコストがかかるのは残念なところです。とくにイヤーピースはともかく、チューブはぜひそのうちダイソーで揃えたいですね。

そして一番問題になるのが特に性能に直結する聴診器の身体に当てる部分、チェストピースのダイアフラム(膜)です。記載されているのは直径40mmにカットした厚さ0.35mのプラスチックの板とされ、アメリカ?ではアマゾンで販売されているレポートカバーの素材がそれにあたるようです。でも日本ではそれ、入手できないんですよね・・・・。

こればかりは試してみないとどうしようもないので代替になるものをダイソーでいくつか探すことにしました。

試した素材と検証

試した素材はすべてダイソーです。実は最初家にあったプラ板を使ってみたのですが、硬い感じでいまいちだったのです。試した素材はPVC2種類と、0.3mmプラ板になります。これらをせっかくあるSnapmakerの機能、レーザーで直径40mmに切り出しました。盲点だったのは透明なプラスチックは半導体レーザーで切断できないという点です。

世の中には透明なものでも効果を発揮できるレーザーもあるのですが、半導体レーザーでは現状色がついていて光が熱に変わらないと切断したり加工したりできません。勉強になりました。

仕方ないのでベースの木の板にいったんレーザーで跡をつけてから、その上にプラスチックを置いて油性マジックで円形に塗って切断しました。流石にきれいに切れます。私のような素人が自宅でレーザー使えるなんて、Snapmakerってすごいですね。(レーザー対応のエンクロージャーやゴーグルが必須です。)

なおチェストピース部分と蓋?部分はパチッとハマり外れない、かなりタイトな作りになっているのでチェストピースも複数作って聴き比べを行いました。

最終的に採用したのは硬質PVCです。硬質カードケースという名前で売られています。おそらくGliaの要求する0.35mmのプラスチックに近いものだと思います。素材もオリジナルと同様PVCですし。ほかの物と比較して音が聴きやすい印象で、軽く当てることでサスペンデッドダイアフラムのように機能して低音も聞き取ることができました。軟質のほうはすぐ経垂れてしまう感じで高い音が聴きにくいです。ただ、0.3mmのプラ板もかなり硬質PVCに近かったのでどちらでもいいかもしれません。PVCが気になる方はこのプラバンをお勧めします。

フィット感向上を目指して一部仕様変更

また、純正?のアーム部分についてはすくなくとも私の耳には当たりが良くなく密閉が保てませんでした。耳がちゃんとふさげないと本来の性能が発揮できない為、こちらは設計を変更して作り直しました。

作り直しはいつも通りFusion360を用いて行いました。Fusion360ではSTLを取り込めるのですが、そのまま取り込むとSTLファイル内に単位がないためなぜかcmで取り込まれてしまい10倍サイズになります。途中で気づきましたがそのまま作って後で1/10することにしました。元のSTLをメッシュに変換して、それをもとにスケッチを行います。STL取り込み後は後で修正できるように基準フィーチャを作成しておきましょう。

私の場合はもう少し耳に入る部分に角度が付いたほうが良かったため、あらたにスケッチをつくってスイープし、適当に反り防止の部品をつけておきました。オリジナルの物と少し角度が変わって、装着時の耳へのフィット性が向上しました。リットマンはより耳の近くで急峻なカーブを描いているのですが、音の伝播が変わるかもしれないと考え緩やかなカーブにしています。

主観ですが十分なクオリティ カーディオロジー同等は言い過ぎか

ということで出来あがった物を視聴してみましたが、個人的な感覚で「まあまあ」です。呼吸音なんかは良く聞こえてクリアですが、心音、とくに低音がいまいちリットマンと比較して聴きづらい印象を受けます。原因は多分、雑音と密閉不足じゃないかなと思います。とくにGliaの聴診器は遮音性がリットマンと比較して劣ります。これは論文の測定方法では判別不能なファクターで、プラスチックとシリコンがオリジナルより外の音を拾ってしまうんですよね。周囲が静かな状態ならいいのですが、雑音があると聴きにくいです。

また低音については密閉性が得られにくい点があると思うんですが、心音の音圧?が足りないんですよね。リットマンはポンと当てただけで音圧で心音がわかるんですが、Gliaのほうはちょっと聴こうとしないと入ってこないというか・・。表現しずらいですが違います。ただ、これは耳のフィット感で変わる部分もあって、音圧が逃げないようにぎゅっと密閉していれば結構よく聞こえます。

ということでリットマンとの比較では今回私が作成したものは追いつけませんでしたが、使えるか使えないかといえば十分に使えます。呼吸音なんかの分解能はむしろリットマンを超えているくらいよく聴こえます。所謂おもちゃではなく、「使える」聴診器にはなっています。ただ論文では限定した環境で当然試験しているでしょうし、条件なんかも異なるため一概には言えませんが、個人的にはカーディオロジーと同等、というのはちょっと言いすぎかな、と感じました。逆に今回のものを作ってリットマンの良さもよく分かりました。流石高いだけのことはあります(笑)

意外と役に立つ聴診器 試しに作ってみては?

作ってみたかったらという理由で作った聴診器、じゃあこれ、何に使おうかということですが、意外と役に立つ可能性はあります。まず一番おススメなのは妊婦さんとそのご家族です。お腹のお子さんの音、お家で聴いてみたくないですか??へんなおもちゃよりずっとよく聴こえるので楽しいと思います。プレゼントしてもいいかも。

あとは子供の教育にも使えると思います。家族の音やペットの音を聴いてみたり、や土や木に当ててみるのも楽しいかもしれません。3Dプリンターで主要パーツを作っている以上作り直すのも比較的容易ですから濡れても汚れてもいいわけでちょっとしたときに楽しく使えるのではないでしょうか?試しに作ってみたらきっと楽しいと思いますよ!

それでは、今回も最後までお読みいただきありがとうございました!