スマホ動画から3Dスキャンとメッシュ作成まで行える、KIRI Engine レビュー。有料ではあるが実用的な3DGS to mesh

当ブログでもちょくちょく話題にしている3Dスキャンの話題ですが、今回はハードウエアではなくソフトウエアの話です。有料ではあるのですが、スマホ動画からでも作成可能な3DGS(後述)によるかなり高性能なスキャンと、おきて破りのメッシュ化が可能なアプリがKIRI Engineになります。実際課金して使っているのですがものすごく素晴らしいのでご紹介させていただきます。

はじめに

今回のアプリをはじめ、スマホ等によるパーソナルな3DスキャンについてはTwitter(X)でも有名でお世話になっているiwamahさんの功績が非常に大きいと思います。今回はKIRI Engineについての話になりますが、スマホによる3Dスキャンの最新情報、現状についてはぜひこちらをチェックして下さい。noteについてもリンクを貼っておきます。また、iwamahさんにこの場をお借りしてお礼申し上げます。いつもありがとうございます!

なお、Scaniverseも完全無料で本当に素晴らしいです。3DGS機能ははメッシュ化は出来ませんがiPhone Pro系統のLiDARを使った大まかなメッシュ化は可能です。

KIRI Engineとは?

KIRI Engineは、香港のKIRI Innovation社が開発した3Dスキャンアプリです。会社は2018年に創業との情報がありました。非常に若く、また勢いのある会社です。

私も存在は上記iwamahさんのXで知っていましたが、2024年12月にこの3DGS to Mesh 2.0がリリースされて俄然興味が出てきて課金してしまったという次第です。なお、アプリだけでなくwebでも利用は可能です。詳細はこちらから。ただ、全体に言えることですが基本的に英語です。

  • 対応プラットフォーム: iOS、Android、Web版
  • 機能: LiDAR(搭載機種のみ)や3DGS、フォトグラメトリーによる3Dスキャン、3DGS to mesh(有料)
  • 無料版の制限: 基本的なスキャンは可能、3DGS以外は週3回までエクスポート可能
  • 有料版の料金: 年額1.2万(2025/3現在) 公式リンクです。アプリインストールすると割引案内があります

無料版でもできる事は色々ありますが、3Dプリンターで使う用途、特に今回の3DGSのメッシュ化については有料なので基本的には有料サブスクアプリと考えてください。頻繁に使うわけでなければ月額で利用時のみ課金でもいいと思います。無料範囲内で行うならScaniverseがあります。フォトグラメトリ(沢山の写真から3Dモデルを作る)については今回は割愛させていただき、3DGSについて掘り下げたいと思います。

まずはこれがKIRI Engineだ!というのを一つ。うちで撮影したお花です。ぐりぐり動いていますが、元はムービーではなく、3Dモデルです。(これはメッシュではなく3DGSモデルです)

とりあえず、すさまじいことはお判りいただけたと思います。3Dスキャンでは絶対無理な花瓶もそこそこできています。これ本当にすごいですよね・・・?最初これ見たときには声出ました。

3DGS(3D Gaussian Splatting)とは? KIRI Engineの強み

KIRI Engineをはじめ現在3Dスキャンのトピックの一つがこの3DGS(3D Gaussian Splatting)です。これ、私も正直あまり理解できていなくて、この記事を書くにあたって調べましたが、やっぱりふわっとしか理解できていません(笑)。が、実はこのふわっとした感じこそが3DGSの要です。こちらのnoteが全体の把握に際してとても分かりやすかったので詳細はこちらをご覧いただいただくのがおススメです!さらに1次情報としてのフランスの論文からのgithubリンクも貼っておきます。

こちらのnoteの表現をお借りすれば、3DGSは3Dを表現するのに面で構成されたメッシュを使うのではなく、無数の色のついた霧で空間を表現する手法になります。ざっと3Dを見渡しても「霧っぽい」感じが実感できます。スキャンの点(厳密にいえば点ではなくガウス分布)それぞれがふわっとしているので、全体を俯瞰したときには非常に滑らかな3Dのボリュームになる感じです。空間分解能は霧の密度で決まります。

KIRI Engineでは「High-Fidelity 3DGS」としてこれが洗練されており、ふわっとしやすい3DGSでも文字が読めるはっきりした3DGSスキャンが行えます。何より3Dプリンターユーザーにとって致命的な「メッシュではない=プリントできない」問題が、後述の3DGS to Meshで解決されている点がKIRI Engineの革命的なところです。今回は割愛しますがBlenderに直接このメッシュ化されていない3DGSを持ってきてそのまま利用できるプラグインも最近バージョンアップしてさらに強力になっています。スゴイとしか言いようがない。このYoutube動画もぜひ。

なお、最新ではこのBlenderアドオンはバージョンがさらに上がっていて3DGSにレンダリングやテクスチャを貼ることが出来レンダリング機能も向上、またメッシュを逆に3DGSにする機能もあるとの事です。

アプリの概要 特に迷うところはなし

KIRI Engineアプリの使い方については特に迷うところはないと思います。基本的にはアプリからスキャンの方法(写真からか、ビデオからか、LiDARからか等)や前述のPRO版のメッシュ付きの3DGSスキャンを行うかなどを選択して指示に従うだけです。メッシュ付きの3DGSスキャンを行う場合は動画をぐるっと一周回りながら撮るだけです連続して動きながら上面などもぐるっと回しましょう。

詳細なテクスチャを得たい場合はピントが合う範囲でちゃんと近づく必要があります。手ブレないようにぐるっと回るのは3Dスキャナーのテクニックと同様です。アップロードが終わればアプリは閉じてもOKです。出来上がったら開くことができるようになります。

プランは月額と年額の2種類。アプリをインストールすると年額の初回割引プランを提案されたため私はそれで1年プランにしました。月額2500円、年額だとだいぶ安くなって12000円です。かなり楽しめるのでコスパは悪くないのではないでしょうか?

なお、LiDARやフォトグラメトリについてはメッシュ出力も標準で可能です。(週3回まで無料)

精度が高い3DGSのメッシュ化が可能 Blenderでリトポしてみた

今回の目玉(?)KIRI Engineの有料版ならではの機能が、この「本来メッシュではないデータをメッシュにしてくれる」という3DGS to Meshの機能です。これにはLiDARも不要でただ単に1分以内の動画データを撮影して後はアプリ(クラウド上で行われます)に任せるだけ、という点が特筆すべき点になります。

アップロード後の処理は順番待ちのようになっていて、Pro版の課金ユーザーであってもすぐには完了しません。数時間はかかると思ってよいでしょう。処理をサーバー側で行う都合上コレは仕方がないところです。私はiPad Proで動画をアプリ上で撮影しています。処理後のものはKIRI Engine webから見たりダウンロードが可能です。PCとiPadをつなぐ必要はありません。

メッシュはobj形式でちゃんとテクスチャがついています。メッシュ密度はそこそこあり、LiDAR以上、3Dスキャナー未満といったところです。Blender上で開いたものを提示しておきますが、加工すれば多くのものに利用できるでしょう。

特徴がないものや反射するもの等に弱いところは3Dスキャナと共通ですが、黒はそこまで苦手ではありません。床を見るとわかる通り、情報量が足りない部分は結構歪みますので3Dスキャナほど厳密なものではありませんが、動画を1分撮影するだけでコレが出来る、というのは未来感がありますよね!

今回はこのスキャンを元にBlenderでモデリング(主にリトポ)を行いました。3Dプリント用なので色はありませんし、細かいところは省いて一部カバーがかかっているところなども適当に処理しました。持ち手の部分とか、そのままだと細くて折れちゃいますから割り切ってデフォルメすることも時には必要です。ディスプレイ部分なんか適当の極みですね(笑)

メインのボディをまず作ってから、別印刷で作るアームやディスプレイを作り、組み立てる方式です。個人的には可愛く出来たと思っていますがいかがでしょうか?しばらく前紹介したようなVEGAのような高価高性能3Dスキャナを使用せずこういうことが出来るのがこのKIRI Engineの強さです。すごすぎる。

また、やはりこういった不揃いなメッシュはCADでは扱いにくいのも今回よくわかりました。FusionやFreeCADでメッシュを参考にコレを作ろうとするとかなり労力を要する気がします。3Dスキャンをサーフェスにする高価なツールは存在しますが、こういう作業はBlenderでやるのが多分一番良いのでは・・・??

私はBlenderを上手に使えないのですが、少なくとも3Dスキャンで利用したい部分についてはこれからも勉強したいと改めて思いました。出来上がったら3Dプリントして今回は簡単に彩色もしました。うん、かわいい。

色塗りも課題です。3Dプリンター界隈では多色印刷が話題ですが、色に限りはありますし、機械任せでなくアナログに塗る作業もやはり重要だと思うんですよね・・・。せっかくなので彩色についても少しずつ学んでいきます。なお、現在使い始めたのは臭いや溶剤を利用しないアクリルガッシュによる彩色です。

お手軽3Dスキャンとしては強力で課金の価値は十分あります

今界隈で?一番ブレイクスルーが多い3Dスキャン方式、3DGS。メッシュにできると今回のようなモデル作成にかなり威力を発揮するのでこれからも本当に楽しみです。技術の進歩でやれることが増えることを考えると、よい品質で動画を残しておくのも大切かもしれません。(将来的によりきれいなモデルを作ることができる可能性があるため)。KIRI Engineは費用こそ掛かりますが本当に強力なので3Dスキャンの経験があまりない方にもお勧めしやすいと思います。スキャンそのものは完全無料のScaniverseで試して、楽しめそうだったらKIRI Engineの有料版で3DGSからメッシュを作ってみる、という2段階でもいいかもしれません。

以前も書きましたが3Dスキャナーとは全く違ったお手軽さがあり、かつこのソフトであればかなり品質の良いメッシュも作れますので是非ご検討ください。

それでは今回も最後までお読みいただきありがとうございました!